映画「Team その子」から学ぶ解離性同一性障害。困難への理解、深めて
第2段階は、交代人格との交流です。つらい経験を抱えてくれている人格を突き放さず、適度な距離で付き合います。 第3段階は、交代人格との交流を進める中で、過去の経験を思い出し、自分の心の全体像を知ることです。断片化していた過去の体験がつながり、記憶がまとまりをもってよみがえってきます。 生き抜くために体験を切り離したのですから、それらを思い出すには苦痛が伴います。そのため、「いま・ここ」が安心できる居場所であることや、過去ではなく「いま・ここ」から冷静な視点を獲得すること、信頼できる治療者からサポートを受けることが必要になってきます。 こうして自分の中でバラバラだった自分を結びつけるうちに、徐々に現実の人たちとのつながりを形成していきます。重要なことは「いま・ここ」を基盤とした「私」の回復です。 × × 性暴力被害者支援に詳しい上智大の齋藤梓准教授(臨床心理学)には、解離と性暴力被害について聞いた。 ▽「痛みを感じない」
性的虐待や身体的虐待は、解離を引き起こしやすいと言われていますが、状態や、起きるタイミングは人によって全く異なります。出来事の最中に「天井や横から自分を見ていた」「痛みを感じない」などと話す人もいます。 解離したままの生活は困難が多く、急に現実感が戻って混乱することもあれば、暴力から逃れて、安全になった時に被害に関する記憶がよみがえる場合もあります。記憶が戻ることは苦しいことですが、一方で、自分の心の傷つきを整理するタイミングになるかもしれません。 ▽シャッターが降りた 子どもの時に性的虐待に遭った人が成長して別の性暴力に直面した時に、解離が起き、抵抗することが困難になる場合があります。「シャッターが降りたようで体が動かず、声も出なかった」と話した人もいます。 幼い頃、虐待から生き延びる手段だった解離によって、自分の意思と全く関係なく、「相手に合わせるような言動をした」ととられてしまうこともあるのです。
2023年7月、改正刑法が施行されました。不同意わいせつ罪、不同意性交罪では、「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」の原因となりうる行為として八つの類型を示しました。その一つに「虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること」が含まれました。 過去に虐待の被害に遭った人が、一過性の解離を起こし、再び被害に遭ってしまう実態があります。解離の概念を含め、警察・検察、裁判官など司法関係者だけでなく、教育関係者など社会で広く知られてほしいと思います。