映画「Team その子」から学ぶ解離性同一性障害。困難への理解、深めて
子ども時代に虐待や性暴力などの苦しみを経験すると、トラウマによって1人の人間の中に複数の人格が生まれることがある。かつて多重人格障害とも呼ばれた「解離性同一性障害(DID)」をテーマにした映画「Team その子」が全国各地で上映されている。 【写真】父親の性的虐待は、なぜ無罪になったのか 逃げ場ない被害者の心理、司法はもっと知って 19年
DIDを抱える主人公「その子」を描いたフィクションだ。監督の友塚結仁さんは、全国各地で上映会を開いている。「映画を通じて、この障害のある人の困難に理解を深めてほしい」と話している。 DIDや解離について深く知るため、識者にも話を聞いた。(共同通信=小川美沙) ▽「人格たち」に追い詰められる 優しい彼と暮らし始めた主人公・その子。「こんな幸せ長く続くわけないし」の声が頭に響く。身に覚えのない買い物をしたり、記憶が途切れたり―。その子の中に存在する「人格たち」はそれぞれバラバラに行動し、周囲との人間関係に摩擦を生んでいた。映画は、人格たちに翻弄され、追い詰められるその子の葛藤と、再び歩み出すまでの姿を映し出している。 これまで、DIDを抱える複数の人との出会いがあったという友塚さん。約20年前から、ドメスティックバイオレンスや性暴力などによる心の傷つきからの回復を支援するNPO法人「レジリエンス」のスタッフとして活動している。活動の傍ら、好きな映画を作りたいと映画学校に通い、卒業制作として選んだテーマがDIDだった。
DIDはかつて、ドラマや本などで「裏の顔は殺人鬼」などとセンセーショナルに描かれることもあった。しかし、レジリエンスでの学びの中で、当事者はそうした誤解や偏見に苦しみ、周囲との人間関係がうまくいかないなど生きづらさを抱えていること、幼少期の性暴力被害といった、過酷な経験をしたことなどが影響していることも分かってきたという。 2023年春に完成したこの作品で、その子や「人格」などを演じた役者は、映画学校の学生や、知人らだ。性暴力被害を経験し、DIDを抱える当事者でもある「レジリエンス」の中島幸子代表も、監修と「カウンセラー」役を担った。これまで全国で30回以上、上映会を開催。友塚監督や中島さんらによるトークも各地で実施されている。 友塚監督は「当事者がどうやって生き抜くか、間近で見ているととても力強い。こういう問題がある、で終わらせるのではなく、その力強さ、希望を描きたかった」と話している。