世界中で「第三次世界大戦シフト」着々…日本の沖縄も、欧州のドイツも、長年の「平和ボケ」から脱出しつつある
欧州にも同じ状況が見て取れる
第二次世界大戦後、ヨーロッパの大国間では80年近く平和が続いてきた。東西で対立した米ソ冷戦時代にはNATOとワルシャワ機構軍の間で軍備競争が行われた。しかし、1989年秋のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の崩壊で、すっかり雪解け状態となり、軍備縮小が進んだ。 ところが、それから30年後、2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻した。NATOはウクライナを全面的に支援し、事実上の代理戦争となっている。 バルト三国をはじめ、ソ連・ロシアによって攻撃され、併呑された歴史を持つ東欧諸国にとっては、悪夢の再来を避けるために、自らの軍備を拡充するのみならず、NATOの結束を固める必要性を再認識している。ポーランドは、2023年の国防予算をGDPの4%に引き上げた。 それは、東欧諸国のみならず、ドイツやフランスという西欧の大国についても同じである。 ドイツは、東西冷戦時代の西ドイツの時代には50万人の兵力を有していたが、今は18万人にまで減っている。1989年には5000両あった戦車は、今は300両である。兵器や装備品も老朽化が酷く、使い物にならないという。 国防費は、今はGDPの1.4%にとどまっているが、ショルツ首相は2%にまで引き上げることを明言している。連邦軍の増強のために、1000億ユーロ(約15兆円)基金も創設した。 さらには、ロシアの核による威嚇を前にして、ショルツ政権は核抑止を重視する姿勢に転換した。これまで平和主義的主張を強調してきた社会民主党(SPD)であるが、アメリカの戦術核の配備の必要性を再確認している。 NATOの非核保有国であるドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコは自国内にアメリカの核兵器を持ち込み、ソ連・ロシアからの核攻撃に備えてきた。これがNATOの核共有政策である。 ドイツは、ナチス時代の反省から、紛争地帯への武器供与に慎重な姿勢を維持してきたが、ウクライナ戦争の勃発で大きく方針を転換したのである。 男性の兵役を義務とした徴兵制は2011年に停止されたが、その復活も議論されるようになっている。ピストリウス国防相は、予備役を含めると24万人の兵力を46万人にまで引き上げる必要があるとしている。 徴兵制復活には警戒する声も高い。そこで、志願制は維持しつつ、男性の兵役登録を再開する方針である。具体的には、18歳の男女に入隊意思などを尋ね、適任者を招集するが、男性には回答を義務づける。適任者として選ばれた人は、適性検査を受けねばならない。兵役期間は6ヵ月で、最長17ヵ月の延長が可能である。 苦肉の策であるが、ヨーロッパ情勢が悪化すれば、徴兵制の復活もありうるであろう。 フランスのマクロン大統領は、2024~2030年の7年間の国防費を4000億ユーロ(約55兆5000億円)にすることを決めたが、これは2019~2025年の2950億ユーロ(約41兆円)の3割増しである。欧州は軍拡の時代に入ったと言える。 6月17日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、『年次報告書2024』を公表した。 それによると実戦配備済みの核弾頭数が3904発となり、昨年よりも60発増えたという。核弾頭の保有数は、ロシアが5580発、アメリカが5044発であるが、中国が核兵器開発を加速化させていることに注意を促している。今の中国は500発の核弾頭を保有しているが、10年後には、米露と並ぶ数のICBM(大陸間弾道弾)を保有するだろうとしている。 核戦争の危機もまた深まりつつある。
舛添 要一(国際政治学者)