「ビルから人が落ちてきた」「何も着ていない女性も」「内部温度は700度に」 44人が死亡した「歌舞伎町ビル火災」地獄の現場
人がドーンと落ちてきた
異変は突然、訪れた。 「時刻は1時前でした。通りで呼び込みをしていたら、いきなり僕のすぐ近くにドーンと男の人が落ちてきたんです」 と話すのは、近所のカラオケ店の店員だ。 「最初は自殺だと思ったんですが、エプロンをしていたので、すぐマージャンゲーム店の従業員だということが分かりました。上を見ると、非常窓を覆っていたビニール製の宣伝幕が突き破られ、その穴から白い煙が噴き出していました。男性は頬からこめかみにかけて血だらけでした。それがフラフラ立ち上がり、ビルの中に入ろうとするので慌てて引き止めたんです」 前後して、「バーン、バーン」という爆発音を通行人や住民が聞いている。隣接するビルの飲食店店主が言う。 「ヤクザの抗争でも始まったのかと思いましたが、続いてすぐに“火事だ”という叫び声がした。周囲にキナくさい臭いが瞬く間に立ち込め、外を見るとビルの3階から煙が出ているのが分かりましたが、その時点では炎はまだ確認できなかったので、せいぜいボヤ程度かと思っていたんです」 だが、それが未曾有の大惨事の幕開けだった。 「火が出ているぞ」「消防車はまだか」「ビルの中に客が残っているらしいぞ」――。 たちまちのうちに数百人以上に膨れ上がった野次馬たちの怒号と喧騒の中で、最も早く現場に駆け付けたのは、新宿消防署・大久保出張所のポンプ中隊6名だった。 「119番の第一報は、午前0時59分の”歌舞伎町1丁目のビルから人が転落した“という救急要請でした。それが1時を回ったところで”火事です。火の手が上がっています“という通報が間を置かず入り始めたため、直ちに”一斉対応“を取りました」(東京消防庁の担当者) ビル前に駆け付けた中隊長に、飛び降りた従業員が、 「3階が燃えています。店の中に従業員5人、客が15人ほどいます」 と申告。さらには、 「建物の裏にも飛び下りた人が何人かいるらしい」「4階の『スーパールーズ』から女の子たちが全然出てこない」 といった情報が飛び交う。 1階の情報店はすでに閉店していたが、2階のクラブからは残っていた女性数人が降りてきた。地下1階のカジノとクラブからも、このころ、ようやく火事に気付いた客や女性が表に逃げ出した。 「状況からビル内に逃げ遅れが相当数いるのは間違いありませんでした。そのため続いて到着した新宿救助隊と協力して、屋内の階段から、まず2階まで注水しながら徐々に前進しましたが、すでに熱と煙が充満して思うように進めない。階段は狭く、大人1人がようやく通れる幅でした」 と、消防隊員は言う。 「火元とみられる3階に進入した時点では、当初はついていた電気も消え、真っ暗な中に炎が見えた。そこで階段の踊り場に到着する前に体を伏せ、2人一組で互いに腰に命綱を回して、先を行く者が携帯投光器を持ちました。暗がりの中を、背後から援護注水を受けながら、横の壁と床を手で確認しながら進みました」 だが、ようやく3階の「一休」に進入した隊員が発見したのは、一様に出口と反対側に頭を向けて倒れている犠牲者たちの無残な姿だった。 「3階の人たちは、煙から逃れようとしたのか店の奥に集中していました。消防隊員は逃げ遅れを見つけると、必ず“おい、大丈夫か、しっかりしろ”と声をかけます。そして体を軽く揺すり、少しでも意識があると、自分が付けている空気呼吸器を被害者の口に当てるのですが、今回の現場では、一目で“これはダメだ”と分かる状態でした」