『放課後カルテ』松下洸平が子どもたちに施した“命の授業” 岡本望来ら子役の名演が光る
もし子どもがいて命の大切さを教えたいなら、『放課後カルテ』(日本テレビ)を観せてあげるといい。特に「人は思ってるより何倍も脆い」という牧野(松下洸平)の言葉を児童たちが実感する第2話は、最初から最後まで余すところなく“命の授業”になっていた。 【写真】篠谷(森川葵)と話す牧野(松下洸平) 牧野が学校医として赴任した小学校で6年生を対象にAED講習が行われる。担任の篠谷(森川葵)や藤岡(平岡祐太)が一生懸命実演するが、児童の多くはつまらなさそうにしていたり、ふざけて笑っていたり。牧野が小学生には少し強めの言葉でAEDの使い方を学ぶ意義を訴えかけても、あまり伝わっていない様子だ。 子どもにどうやって命の大切さを教えるか、それは大人たちの普遍的な課題。大人とは違い、まだ身近な人の死や大きな病気を経験している人が少ない子どもはいくら言葉で説明されてもなかなか実感しづらい。だからこそ、命に対して無関心あるいは無責任な態度を取ってしまうことがある。「牧野が患者を殺した」という啓(岡本望来)の言葉を鵜呑みにした児童たちが、「保健室に行ってはいけない」という噂を拡散したように。 ただでさえ自分の体の不調を周囲にうまく伝えられず、1人で抱えがちな子どもたちが、そんなストッパーをかけられたらどうなるか。体に違和感があっても我慢し続け、最悪の場合は発見が遅れて命に関わることもある。実際、理子(中村たんぽぽ)の場合は友達の啓の制止を振り切って自分の判断で牧野に相談したため、IgA血管炎を発症していることが分かったが、それだってまれに腎機能障害を起こす恐ろしい疾患だ。 4年生の勇吾(湯田幸希)も木から落ちた時に強い痛みを感じたにもかかわらず、噂を信じて保健室に行かなかったことで、気胸を起こして倒れてしまう。牧野の緊急処置で一命は取り留めたが、もっと早く相談していれば苦しい思いをせずに済んだのだし、噂を流した児童にも責任はないとは言えない。 一方で、勇吾が木から落ちたのは「高いところから飛び降りて、うまく着地できたらかっこいい」という友達・朝陽(渋谷いる太)との度胸試しが原因だった。命の重さをまだ実感できていない子どもたちは時に、自分の命も軽んじて危険に晒してしまうことがある。そんな度胸試し、突破したところで何にもならないし、寿命を縮めるだけ。大人になれば誰もがそう思える。他方で幼い頃の気持ちを思い返してみれば、「子どもには子どもの世界があって、それが全てなこともある」という篠谷の意見も理解できる。だけど、そこに寄り添った上で、じゃあどうやって命の大切さを分かってもらうのかと言われた時に、言葉に詰まってしまうのが多くの大人だ。 そこで牧野は、下校途中に横から飛び出してきた自転車と衝突して意識不明の状態で自分が勤めていた大学病院に入院している子どものところへ朝陽を連れていく。同い年くらいの男の子がベッドで管に繋がれ、眠っている姿を見た朝陽はしばらく言葉を失っていた。トラウマになったらどうするのか、と牧野の行動を責める人もいるかもしれない。だけど、勇吾の命が幸いにも助かったことで、徐々にその出来事が2人の間で風化していき、また同じことを繰り返す可能性もある。だからこそ、牧野は多少手荒な方法であっても今、自分たちがどれだけ危険なことをしたかを2人に伝えるべきだと考えたのだ。 「5分前に戻ってやり直したい、そう思ってもやり直せないのが命だ。だから大切に扱わないといけない」と朝陽に語りかける牧野。医師としてたくさんの命と向き合ってきた彼の実感のこもった、厳しくも温かみを感じさせる声でその言葉がスッと心に沁み入る。朝陽や勇吾の心にも牧野の言葉は届いた。お互い生きて言葉を交わせている状況に安堵したかのように、彼らは涙を流す。子役2人の名演に思わずもらい泣きさせられた。 名演といえば、今回の主役の1人でもある岡本望来も素晴らしかった。学校帰りの神社で老人が意識を失って倒れる場面に遭遇した啓。牧野を敵視しながらも咄嗟に講習を思い出して彼に連絡し、指示を仰ぎながらAEDで救命を行う。小刻みに震える体と目から溢れて止まらない涙。岡本の鬼気迫る演技が、目の前の命を自分だけが握っている恐怖を映し出していた。 その恐怖に抗い、啓が心臓マッサージを続けた結果、老人は一命を取り留める。木から落ちた勇吾のことも気遣っていたように、本来はとても責任感が強い子なのだろう。弟の直明(土屋陽翔)が病気で牧野が勤めていた大学病院に入院していることもあり、他の児童よりも命の重みも知っているであろう啓。そんな彼女がなぜ「牧野が患者を殺した」という無責任な噂を流したかといえば、牧野が弟を見捨てたと感じていたからだった。ぶっきらぼうだけど、どんな生徒のSOSにも平等に向き合っている牧野が命を選別するとは思えないが、もしそうせざるを得ない理由があったとするなら彼が大学病院を辞めたことと何か関係しているのかもしれない。
苫とり子