男子バレー、サトウ全日本の新采配とは?
「アーッ!」 高く上がったトスにタイミングが合わず、スパイクをネットにかけた石島雄介が大きな声で叫ぶ。 「戸惑い? 正直ありますよ、久しぶりに(ライトからスパイクを)打つので。でも試合で結果を出さなければこれからも使ってもらえない。自分をアピールしないといけないですから」 試合後、ワールドリーグから取り組んでいるポジション、オポジット(セッターの対角)について尋ねると、石島はそう言って表情を引き締めた。前年度のVプレミアリーグ優勝チーム、堺ブレイザーズでは押しも押されぬエースとして認知されている石島でさえ、新生全日本では「オポジットの控え」(石島)である。スタートラインは横一線だ。 6月15~16日、小牧市パークアリーナで開催された男子バレーボール、ワールドリーグ。世界ランキング19位の全日本男子は30位のフィンランドを相手に2試合ともセットカウント3対1で勝利し、今シーズンの初めてのホームゲームを連勝で飾った。全日本男子は今年の4月、新監督に日系アメリカ人のゲーリー・サトウを迎え、新たな体制で今大会に臨んでいる。第一節の韓国戦、第二節のオランダ戦を落とし、4連敗でこのホームゲームを迎えていた。 新監督の采配で目を引いたのが石島を含めた選手起用である。故障で代表を外れたエースの清水邦広に代わり、オポジットには本来、サーブレシーブを受け、レフトからの攻撃を中心とするウィングスパイカーの八子大輔と石島雄介を交代で起用。八子は「初めての経験」、石島も「7年前に一度だけ入ったことがある」と語る不慣れなポジションに、彼らを抜擢した理由はなんだろうか。サトウ監督は言う。 「オポジットの選手には、当然ですがライトからの攻撃力に最も期待しています、ライトの決定力がアップすることで、相手のブロッカーの意識や戦略が、こちらのレフト、センターだけではなく分散するからです。そして、強力なサーブを打てることも大切なポイントのひとつですね」 こうして高い得点力を求められるオポジットには外国人助っ人を起用するVリーグチームが多い。日本人がレギュラーで出場するのは清水が所属するパナソニックとFC東京のみである。そのせいもあり全日本はこの数年、オポジットの選手不足に悩まされている。今年5月に引退した山本隆弘、故障中の清水に続く選手が、残念ながら現れていないのが現状だ。 対照的に、ウィングスパイカーには八子、石島を含め、清水とともに日本の攻撃の要となる福澤達哉、全日本に返り咲いた越川優、守備力の高い米山裕太、Vプレミアリーグで新人賞を獲得した千々木駿介などがひしめく。八子、石島の攻撃力を生かすためにはオポジットへの転向も十分、考えられる手段だが、セオリーや固定観念が邪魔をしていたのか、今までそれを実行した監督はいなかった。