「心地よい会話」はどう生まれるのか? 言葉を引き出すプロ、クリス智子に心がけを訊いた
よいものを生み出すために、妥協せず言葉を尽くす
──ご自身がナビゲーターとして、そういう雰囲気のトークに強みがあると感じたきっかけはありますか? 強みかどうかはわかりませんが、実質的なことでは、最初から、それこそ台本がないゲスト番組の担当だったんです。当時は大学を卒業したばかりで、ある意味では放り込まれた感じというか(笑)。ただ、子どもの頃から、コミュニケーションや人との縁でどんどん自分の世界が動いていたので、当時のプロデューサーも何かを感じて任せてくださったのかもしれません。自分としては、「ぜんぜん向いてないです」という腰が引けるところから始まったんですが、人と話をしたり、聞いたり、「この人はどういうことを考えているだろう」「今、何を話したらおもしろいだろう」と考えることは昔から好きでしたね。 マニュアルで学んだりレッスンを受けたりしたわけではなく、自分の声でどういう情報を届ければいいか、よりよいオンエアのためにどうすればよいかをずっと考えていて、スタッフなど周囲に相談しながらやってきました。「こうしたほうがいいと思う」ということがあれば、周囲に伝えるためには言葉を尽くしますし、時間も気持ちも労力もかかるんですけど、それをするかしないかで、確実に番組の質が変わると思っているので、俯瞰して厳しいところはあるかもしれません。生放送は思い通りになるものではないですが、事前に気づいたことがあれば、悔いが残らないよう、考えたほうがいいよねと。そういう私の話に、スタッフも耳を傾けてくださることで、できてきています。「雰囲気」って、ラジオのいいところだと思いますが、なんとなく、ではなく、しっかりしたものしか纏えないものだと思っているので、私自身は、一生懸命やるのみです。 ──クリスさんのトークは、ずっとおだやかなトーンではありつつ、意外と軽快にツッコミを入れてらっしゃるときがあって、その緩急におもしろさを感じていたんです。今のお話を聞いて、俯瞰して見るという習慣が関係しているのかなと思いました。 オンエア全体を見ても、私はそこにいるんだけど、聴いている方とゲストの方の間にいるというか、本当に限りなく透明な感じでよくて。「そういえば、なんとなく気持ちよかったな」と思っていただける中に、私がいればいいのかなと思っています。