「心地よい会話」はどう生まれるのか? 言葉を引き出すプロ、クリス智子に心がけを訊いた
緊張しないために考えたこと
──長年、ナビゲーターを務めるなかで「あのときは緊張したな」という思い出はありますか? 始めた頃は緊張することもありましたが、今はあまりしなくなりました。もちろん今も、ある種の緊張感は持っていますが、自分が緊張を表に出すことがいいことだと思っていなくて。やはり私が緊張していると、周囲に気を遣わせてしまいますよね。聴いている方にもゲストの方にも緊張感が伝わってしまう。だから、「私自身の妙な緊張は一番いらないかも」と思って、どうすればしないでいられるか、分解して考えたんです。緊張の質を変えるというのかな。緊張をするのは理由がありますよね。自分が準備不足だからなのか、相手が巨匠だからなのか、素敵に見られたいという思いがあるからなのか……理由がわかれば対処できるので、いらない緊張をすることはなくなってきた、という感じです。仕事を始めた頃から、キャリアのあるゲストの方々においては、懐が深いですから肩肘はらず、大船に乗らせて頂く感じで。
感覚を大切に。「曖昧な感じ」がラジオの魅力
──ラジオのおもしろさを、どこに見出されていますか。 何が起こるかわからないということは、ひとつの魅力としてありますよね。きっちりとした四角じゃなく、線が曖昧な感じというか。たとえば、ゲストの方がオンエアに遅れてしまったときに、咎めるのではなく、むしろ面白がる雰囲気がある。生放送も日常も、予想外のことはいつだってありますから、そういう時にいかに面白くしていくか、だと思いますし、他人同士がお互い受け入れ合うことにもつながると思います。何事も、起承転結、細かいところまで予想通りになったら、つまらないですよね。そんな生放送のスリルはもともと好きですね。何が起こるかわからないから、楽しい。 あとは、見えないところがいいとも思っています。 ──と言うと? コロナ禍のときに、ふと気づいたんですが、私はいつも、聴いている人の部屋にお邪魔してるような感覚で放送をしているのかも、と。インテリアみたいに、そこにそれがあるとなんだか心地いいね、という。そういう感覚的な部分を大切に思っています。誰でも「言葉にうまくできないけど、好き」という感覚があると思うんですね。音楽でもアートでも、好きな理由がはっきりとわかるまでに時間がかかったりするじゃないですか。わからないままかもしれない。でも、その言葉にできない感覚的なところが、一番よかったりして。ラジオも、そういうものになったらいいなと思います。