行政機関で加速する内製化・働き方改革・生成AI活用、マイクロソフトが最新事例紹介
日本マイクロソフトは、政府、地方自治体分野における最新の取り組みに関する記者説明会を開催した。 【もっと写真を見る】
日本マイクロソフトは、2024年5月30日、政府、地方自治体分野における最新の取り組みに関する記者説明会を開催した。 行政機関に向けた取り組みの3本柱である「モダナイズ化と内製化」「DXの基盤となる組織風土のトランスフォーメーション」「AIトランスフォーメーション(AX)の加速」のそれぞれで、最新の施策や実際の政府や自治体の事例を紹介した。 これらの取り組みは、同社のパブリックセクター事業本部が掲げる「誰一人取り残されない日本のデジタル社会の実現を通じ、より豊かな未来につながる“かけはし”となる」というミッションのもとで進められる。 日本マイクロソフトの執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長である佐藤亮太氏は、「未来のあるべき姿を、正しい設計図で作り上げることも重要だが、既存の資産や枠組み、制約がある中で、正しい未来に進むための“橋渡し”をすることは、実は一番難しい」と説明する。 モダナイズ化と内製化:大阪市は最大規模のクラウド共通基盤にシステムを移行中 ひとつ目の柱は、「モダナイズ化と内製化」だ。マイクロソフトの強みである、クラウド基盤からノーコードまでを網羅的するテクノロジーポートフォリオの広さを活かして、レガシーやオンプレミス資産が残る行政機関に、課題に合わせたDXを提案していく。 「ガバメントクラウド」にMicrosoft Azureが採択されて以降、同社では行政機関に対するクラウド基盤の構築やローコードツールの活用を推進してきた。その結果、2022年からの2年間で、行政機関のマイクロソフトのクラウド利用は“3倍”に、ローコードツール利用は“2倍”に拡大した。 大阪市では、Azure上に構築したクラウド共通基盤に50以上のシステムを移行中であり、「Azureでのモダナイズ化、クラウド基盤の構築という観点では、日本の自治体で最大規模」と佐藤氏。Microsoft 365も組み合わせ、約2万5000人の職員の働き方を支える基盤としても稼働する。 山梨県では、ローコードツールのPower Platformを活用して、庁内開発と人材育成を進めている。全職員に研修を施し、庁内での開発コミュニティを創出、既に作成された多くのアプリケーションが稼働しているという。 行政機関のDXを支えるパートナー企業との連携も深めている。2023年には、地方自治体のDX促進を支援するための協定を、NTT西日本と締結。NTT西日本内でのクラウド技術力の向上支援によって、NTT西日本のAzureの資格保有者は、約1年で2倍となる約1600名に達しており、得られたAzureの知見を活用して、自治体のクラウド移行支援を加速させていく予定だ。 DXの基盤となる組織風土のトランスフォーメーション:事務職員がDXを先導するアンバサダー活動を展開 続いての取り組みは、「DXの基盤となる組織風土のトランスフォーメーション」、言い換えれば働き方改革の支援だ。「テクノロジーだけでは解決できないことがあることは明らか。DXを組織として進める上で、構造的な課題に対して目を向け、企業カルチャーの変革や人材育成というアナログな部分を含めたノウハウを提供する」と佐藤氏。 ここは自社実践も含めてノウハウを蓄積し、セキュリティ強化やモダンワークソリューションの提供、組織変革の支援など、日本マイクロソフトが多角的に取り組んできた領域である。たとえば2022年から2024年の2年間で、行政機関におけるTeams利用は2倍に増加したという。 東京都とは2023年に連携協定を締結して、DX研修を展開している。都庁の職員を同社に受け入れ、新しい働き方を体験してもらうなど、区市町村も含む局長レベルから現場の職員に対して、年間約30回の研修を実施してきた。既にオンライン会議が2.5倍に増え、紙利用が70%削減される(2016年比)といった成果に結びついているという。 防衛省の働き方改革も支援しており、トレーニングの提供の他、クラウド版のモダンワークサービスの導入も決定。今後は生成AIの活用も検討しているという。「機微情報をあつかうため、防衛省は(クラウドやAIの活用に)非常に慎重なスタンス。セキュリティなどの信頼面を評価いただいたことが採用につながった」と佐藤氏。 また、人事院の長谷川一也氏がオンライン登壇し、同機関におけるDXを中心とした働き方改革について披露された。 人事院では、2022年度のネットワークシステムの更新にあわせて、デジタル庁が運用するガバメントソリューションサービス(GSS)に、ファーストユーザーとして移行。加えて、2025年度の庁舎移転を念頭においた、DX推進計画を策定した。 DX推進は、職員のデジタルリテラシーの向上、GSSを活用した業務改善、そして新しい働き方に適用するオフィスの構築の3段階で計画され、日本マイクロソフトの支援も得ながら進められた。 特にDXを浸透させるために、トップダウンとボトムアップの双方からのアプローチをとったほか、アーリーアダプターを養成する「DXアンバサダー」の活動を推進。2022年度には64名、2023年度には55名が参加し、先行トレーニングなどに加えて、GSSを利用した「業務改革アイデアソン」も実施した。成果のひとつとして「超過勤務処理の自動化」が挙げられ、超過勤務入力シートの作成を自動化して、毎月の作業時間を約164時間削減したという。 人事院内部にとどまらない国家公務員全体のDXにも取り組んでいる。従来、電話やメールで対応し、制度ごとに管理していた人事制度の照会対応業務を抜本的に見直し、「国家公務員制度ナレッジベース(SEDO)」を構築。地方機関を含めた全府省への接続を進めている。代表的な事項はFAQ化し、問い合わせはポータルサイトを通じて受け付け、対応状況のステータスも可視化される。「デジタルを活用した業務見直しのビジョンを描けるようになった成果」と長谷川氏は強調した。 ※訂正:日本マイクロソフトからの指摘を受け、一部の記述を修正しました。(2024年6月11日 15:15 編集部) AIトランスフォーメーションの加速:経産省や中野区で進む生成AI活用の検証 最後は、AIトランスフォーメーション(AX)の加速だ。行政機関でのAI活用の推進においても、他領域同様に「AIを使う」「AIを創る」という2つのシナリオで推進していく。 AIを使う業務効率化においては、Microsoft 365に生成AIを組み込んだ「Copilot for Microsoft 365」を中心に、行政固有のデータを活かして成果向上を目指すにおいては、「Azure AI Studio」や「Azure OpenAI Service」といったAIアプリケーションを創るためのサービスを展開している。 行政機関のクラウドサービス調達に大きく影響する「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」の取得については、2024年2月にAzure OpenAI Serviceが生成AIサービスとして初めて登録され、Copilot for Microsoft 365も、2024年6月中の申請に向けて監査を実施中となる。 生成AIへの理解を促進する施策も展開しており、2024年5月20日には、中央省庁向けに生成AIのイベントを開催。「大変な盛況で、各省庁の生成AIを活用した取り組みが披露された。Azureを活用する省庁が多いが、TeamsやSharePoint、Power BIといったアプリケーションに生成AIを組み合わせる、既存の業務ソフトに生成AIを組み込む、双方で便利になるという手ごたえをいただいた」と佐藤氏。 説明会では、同イベントに登壇した経済産業省の月岡航一氏がビデオレターを寄せ、同省における生成AI活用について説明。同省は、組織経営改革の一環として「業務効率化の追求」を重要な柱としており、生成AIが有効な補助ツールになるのではと注目。具体的には、文案の作成や、平易な文章への変換、情報抽出や資料探索のサポートなどに期待を寄せている。 2023年度には、約100名の職員が、Azure OpenAI Serviceで構築した環境で、機密情報を含まない範囲で限定的に検証を進めた。大量の行政データから高度な検索を実現する、特定課室に最適化した生成AIの実装も検討しているという。今後、検証結果やセキュリティ対策を整理した上で、2024年夏ごろを目指し、全省での本格的な生成AI活用を開始する予定だ。 月岡氏は、「情報政策を所管する経産省として、自ら、生成AIをどうつかいこなすか挑戦し続けることが重要」と述べた。 一方の自治体向けにも、日本マイクロソフトは、ハッカソン・アイディアソンを展開しており、先進的な自治体に対して、自治体業務に即した、あるいは、セキュリティやAIの倫理に配慮された生成AIの利活用を共に模索している。 アイディアソンを実施した自治体としては、中野区長の酒井直人氏が登壇、DXを基盤とした生成AIの取り組みを紹介した。 中野区は、2024年5月に新庁舎を移転、自治体のやり方を変える契機と捉えて、ペーパーレス化を推進し、場所に捉われない働き方を実現するためのインフラ整備を進めた。また、日本マイクロソフトとは、DX推進のための連携協定を2022年に締結しており、アイディアソンを含めて経営層および一般職員に対するDX人材育成を重ねてきた。 Copilot for Microsoft 365については、生成AIのガイドラインを策定し、全職員がブラウザベースのパイロット版を利用できる環境を構築。現在は、DX推進室内で試行中であり、日本マイクロソフトからもプロンプトスキルの共有など、活用のための支援を受けている。「積極的に使いこなすべきだ」という姿勢のもとで、活用研修や効果測定などに取り組みつつ、Copilot for Microsoft 365の利用を進める予定だ。 酒井氏は、「区長になる前は職員だったが、これまで、PCの導入で1週間かかかる仕事が3秒で終わるなど、革命的な変化を見てきた。AIの登場で、同じことが起こるのを感じている。職員が本当にやらなくてはいけない仕事は沢山ある。そこに資源を集中させるという意味でも、AIには期待している」と語った。 経済産業省や中野区の他にも行政機関でのAI活用は進んでおり、マイクロソフトのAIを活用もしは検証している行政機関は100以上になるという。今後も日本マイクロソフトは、150以上のパートナー企業と連携して、行政機関のAXの加速に向けて支援を続けていく予定だ。 また、使うAIの促進における新たな取り組みとして、Copilot for Microsoft 365の検証環境を2024年6月より提供予定だ。実際の業務データを使用せずに、機密性の低い文書だけで評価検証できる個別環境を用意。まずは、中央省庁から展開し、順次対象を拡大していく。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp