夫婦のあり方を考え直す。『1122』ドラマ化を機に原作者・渡辺ペコへ聞く、正解のない家族のかたち
夫婦間に染みついている不平等さも描きたかった
ーそれぞれのキャラクター像について教えてください。主人公の一子と二也夫婦と、美月と志朗夫婦が対照的に描かれているように感じます。発言小町でのリサーチやまわりの方への取材が、それぞれの登場人物像につながっているのでしょうか? 渡辺ペコ:一子と二也は、自分の感覚や、まわりにいる同世代の友人知人のカップルのイメージと地続きだったので描きやすかったです。美月と志朗は、私が思う古い結婚、夫婦のイメージで、ある意味「王道」とでもいうのでしょうか。そうしようと思ったわけではなかったのですが、配置としては対照的になったかと思います。 ー例えば食事のシーンで、志朗が美月に栓抜きさえも持ってこさせるような場面がありますね。志朗の亭主関白のような要素は、意図してつくられたのでしょうか? 渡辺ペコ:定型のイメージとは言ったんですけど、私のまわりには実際にはあんまりいなかったんです。しかし『1122』を描いていた当時、発言小町などのメディアを見ていると、パワーバランスとして夫のほうが強くて、お互いが無意識のうちに役割を務めているような──妻がかいがいしく、夫のお世話を焼くような──夫婦が多いんだな、と思ったんですよね。それこそ「主人」呼びとか。そういう、染みついてしまっている不平等さみたいなものは、意識して描きました。 ー美月と志朗夫婦は、物語が進むにつれて志朗の意識が変化し、いい方向に関係性が変わっていきますね。もともとそうしようと思われていたのでしょうか? 渡辺ペコ:それぞれの夫婦がどうなるかっていうのは、最初はかっちり決めてはなかったと思います。別れてもいいなとか、これは別れるんじゃないかなとか思いながら描いていたときもあったかと。ストーリー上、志朗が変わっていく過程は必要なことだったと思うので、わかりやすくエピソードや言動で提示することには気をつけていました。 でも、どちらかというと私がやりたかったのは、いわゆる「奥さん」──夫婦のあいだで力が弱いほうが、強くなっていく……というか、強さをちゃんと相手に出していく場面を描くこと。夫に何か言われて終わりではなくて、しっかりと言葉で伝える、抵抗する、反論するっていうのを意識的にやりました。 ーある事件が起こったあとに、美月が志朗に対話を促し続ける場面は印象的でした。それぞれ描き終えられてから、主要人物の四人(一子、二也、美月、志朗)に対してどんな思いを持たれましたか。 渡辺ペコ:描いてるときは近すぎてよくわからなかったんですけど、ドラマを見たり、原作を読み返したりすると、タイプの違う夫婦をわかりやすく配置できたかな、と感じました。 あと、私は女性に強くいてほしいというか、強く出てほしいっていうのがあるみたいで。ドラマをひととおり見せていただいてあらためて思ったのですが、あんまり男性から好かれない感じっていうか(笑)、口が減らないっていうのかな……女性が結構強気だなって。自分の意思をあらためて感じましたね。 嫌な感じに見える人もいるかもしれないのですが、現状、女性が黙ってしまうことがまだ多いと思うんです。そこで負けないでほしいという気持ちが、すごくあるんだと思います。 ー物語には、登場人物たちの親も描かれていますね。特に、一子とそのお母さんの関係性には、グロテスクな部分も混じっているように感じました。家族を描くうえで、良好な関係だけでなく、歪さを交えて描かれるということは意識されているところなのでしょうか。 渡辺ペコ:そもそも家族というコミュニティが、ちょっとグロテスクだと私は思っていて。一方で、意識や工夫次第ではうまく運用できる場合もあるんじゃないかとも思っています。ただ、そうはできていない家族やパートナー同士の関係も、たくさんある。 自分自身も歪んだコミュニティのなかで育ってきたから、安定していて信頼できる家族や親がいる──ホームがあるっていうことは、その人にとっての強みだと思っていて。それはとても尊いことで、いいかたちでそれを描くことももちろん物語なのですが、私はそのホームが揺らいでいる、少し脆弱な人のほうが気になるんですよね。強いホームを持ってない人は、どうやって生きていけばいいんだろうっていうのは常に想定しています。 一子は、いろいろ思うところがあったとしても、おとやんを頼りにして、甘えていて、依存している。それをたぶんおとやんも、わかって受け入れている。例えば一子のホームが安定していれば、あっさり別れることもあったんじゃないかなって私は思います。一子は、お母さんとの関係が不安定だから、簡単にはおとやんとのつながりを切れないところがあった。何か親的なものを、恋人やパートナーに求めてしまうような側面もあると思うんですよね。そういうところも含めて描きたかったんだなと、ドラマを見て思いました。 ※以降、物語の重要なシーンに関する内容を含みます。あらかじめご了承ください。