夫婦のあり方を考え直す。『1122』ドラマ化を機に原作者・渡辺ペコへ聞く、正解のない家族のかたち
結婚や夫婦のあり方は本来人それぞれのはず。でも、どこか「こうあるべき」「これが幸せ」という定型が、世の中に漂っているのはなぜなのか。その定型から外れたとしたら、はたして幸せではないのだろうか? 【画像】一子(高畑充希)と二也(岡田将生) そんな問いを突きつけてくるのが、漫画家・渡辺ペコが描いた『1122(いいふうふ)』。結婚7年目の仲良し夫婦、一子(いちこ)と二也(おとや)。セックスレスで子どもなし。そんな二人が選択したのは「婚外恋愛許可制(公認不倫)」。二也には、子どもを持つ既婚者の彼女(美月)がいて……。 結婚や夫婦のあり方を考えさせられるこの作品が、今泉力哉監督によって『1122 いいふうふ』としてドラマ化。今年(2024年)6月14日にPrime Videoにて世界独占配信がスタートした。主演を務めるのは、高畑充希(一子役)と岡田将生(二也役)だ。 2016年から2020年にかけて連載された漫画『1122』。2024年にドラマ化されることについて、いま原作者は何を思うか? また、結婚という制度についてあらためて感じることとは。渡辺ペコにインタビューを行なった。
「すごく良いもの」である結婚が「うまくいっていない」現状に興味を持った
ー『1122』の物語は、どのようなきっかけから着想されたのでしょうか? 渡辺ペコ:一言で言うと、結婚の社会的なイメージと、個人的な認識にずれがあったことが出発点です。 私の両親はずっと不仲で──のちに離婚するのですが──当時、私は子どもだったから、選んだ訳ではないのに、うまくいってないコミュニティのなかにいなければいけなかった。大人の幼稚なやり取りや態度をずっと見てきて、その不信感がベースにあったんです。 でも、成長してフィクションをいろいろ見ていると、世の中のイメージとして結婚はすごく良いもので、ひとつのゴールのように設定されていて。私が若い頃──つまり20年以上前は、いまよりもその感覚が強かった。よくわからなかったし、個人的にはちょっとした恐怖も感じていました。 さらに30代になって、友人知人、編集さんとお話しするなかで、仲の良いカップルや夫婦ほど、レス──性的なつながりがないっていうケースが散見されて。また当時、読売新聞の「発言小町」という読者の投稿サイトを見漁っていて、トピックを全部知ってると言えるぐらい読んでいたんです。「夫婦の悩み」が注目トピックで、そのなかでもレスの話っていうのは多くて。世間や社会を見たとき、年を取るほど相手に対して憎悪や嫌悪感を抱くような状況を感じることも多かった。 「すごく良いもの」で、一つの到達点とされる結婚なのに、蓋を開けるとうまくいっていない。この現状は何なんだろう、と。これをお話として描いてみたいって思ったんです。 ー『1122』連載のスタートは2016年と、いま(2024年)から約8年前、完結は約4年前ですね。時間が経ってからのドラマ化となりましたが、あらためて作品について発見や気づきはありましたか。 渡辺ペコ:フィクションで不倫をテーマにした作品はもともと多かったとは思うのですが、『1122』の連載が始まってから、夫婦間で新しい関係性を模索したり、性的なものをどう扱うかというところを描いた漫画や小説が増えてきたイメージがありました。私が最初っていうことではないのですが、当時は「新しいですね」と、よく言われた記憶があります。 でもいまは、すでにいろんなかたちで世の中に出ているので、「もう古いよ」って思われてしまったら残念だなって心配だったんです。でもかたちになったものを見たら、いまのドラマとしてちゃんと通用するなと思いました。その点は安心しましたし、お任せして良かったです。 ー「いまのドラマとして通用する」と感じられたのは、どういった部分でしょうか。 渡辺ペコ:新しい世界が立ち上がっているので、純粋に映像作品として面白い。俳優さんの力もすごく大きいと思います。生身の人たちが物語を繰り広げることで、普遍性を感じられるようにも思います。 一度だけ撮影にお邪魔したとき立ち会ったのが、一子(高畑充希)と礼くん(吉野北人)がカフェで話していて、おとやん(二也=岡田将生)が偶然それを見てしまう場面だったんですね。何年も前だから、自分で描いているのに忘れていて(笑)岡田さんが──おとやんが一子に何も声をかけず、ふいって行ってしまうから、びっくりしちゃって。何か言えばいいのに、挨拶しないんだ、とか心配になってしまいました(笑)。 ー漫画では二也の傷ついた顔がクローズアップされるために怖さは感じなかったのですが、岡田さんが演じられていると迫力が増していたかもしれませんね。 渡辺ペコ:そうですね。ドラマの最初の一子とおとやんが会話をしているシーンでは、二人とも仲が良くてすごくかわいい。でも岡田さんがあまりにも優しいから、逆に何か起こりそうで恐ろしいという感想も聞きました(笑)。