少子化なのに「不登校」激増の異常事態 「無理して通わなくていい」は正しいのか
「休ませなくて本当によかった」
2016年に成立し、17年に施行された教育機会確保法の影響も、大きいのではないだろうか。これは不登校などの理由で義務教育を十分に受けられなかった子供たちに、教育の機会を確保するための法律で、不登校が急速に増えているという状況を踏まえて制定されたものだ。とはいえ、8年前の2015年度における不登校は約12万6,000人で、23年度とくらべれば3分の1程度にすぎない。むしろ、この法律が施行されてから、不登校は増加の一途をたどっているのである。 どうしても学校に通えない子供に、教育の機会を確保するという発想自体は、否定されるべきものではない。だが、この法律のおかげで「学校に無理して通う必要はない」という意識が急速に広まったという指摘がある。最後の最後に頼るべきシェルターとして機能するなら有益だが、安易な逃げ場になっているとしたら、この法律自体を見直す必要もあるのではないだろうか。 最後に、いまでは高校生になった男子の母親の話を紹介したい。 「息子は中学受験で難関校に合格しましたが、その直後から、小学校でいじめを受けるようになりました。息子は『もう小学校には行きたくない』と言うので、卒業までわずかだし行かせなくてもいいか、と思ったのですが、夫と相談した結果、最後まで通わせることにしました。ここで1カ月ばかり小学校に通わなくても、学習には影響ありません。でも、嫌だったら通わなくていい、という意識が子供に植えつけられてしまったら、中学や高校で困難に直面したとき、そこから逃げるようになってしまうかもしれません。だから最後まで通わせる、というのが夫と話しての結論でした。そう決まって、小学校の担任の先生に事情を話して相談すると、協力して、息子をいじめていたような子たちをうまく導いてくれました。息子はその後、学校が嫌だと言ったことは一度もありません。あのとき休ませなくて本当によかったと思っています」 不登校の増加への対処法として、「子供たちにとって安心、安全な環境を作っていくことが大切」などという指摘がなされている。それが大切なことはいうまでもないが、それ以前に、どんな環境にも慣れ、また耐えられる子供たちを育成しないかぎり、不登校は増え続けるだろう。耐性のない子供が増加すれば、ひいては社会が立ちゆかなくなる。大本を見据えて対策を講じてほしいと切に願う。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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