テクノロジーではなく、激しい競争がブロックチェーン普及の原動力
インターネットと同様に、分散型ネットワークは、常にあらゆるタスクに最適なツールとは限らない。だが分散型ネットワークのオープンでパーミッションレスな特性が激しい競争を生み出し、技術的な効率性だけではなく、顧客に有益な成果をもたらすことが多いとEYのポール・ブロディ氏は述べる。 ● 金融は誤解に満ちている。例えば、伝統的金融(TradFi)はさほど中央集権化されていない。グローバルな銀行システムは、あらゆる種類の国家および当局や組織と結びついており、信じられないほど分散化されているなどだ。 もうひとつの誤解は、古いテクノロジーはコストがかかり、人々が銀行サービスを利用できない原因となっているというものだ。これも真実ではない。高価格やアクセスの低さは、多くの場合、煩雑な規制や競争の欠如によるものだ。 メインフレームによる取引プロセスは安価で効率的。そうした「レガシー」メインフレームのほとんどは、実行中のコードに数十年前に書かれた要素が含まれているとしても、数年前に製造されたものだ。 こうした理由から、私は長い間、ブロックチェーンがクレジットカードやデビットカード、伝統的な銀行口座をリプレースすることは難しいのではないかと考えていた。古いテクノロジーには、優れたパフォーマンス、低コスト、そして多くのユーザー層という利点がある。だが、銀行や伝統的金融に欠けているのは、ブロックチェーン分野からの激しい競争かもしれない。
激しい競争とイノベーション
理論上、ブロックチェーンは、決済のような単純な取引プロセスにおいては、決して中央集権型システムよりも効率的ははずはない。ブロックチェーンは、多くのノードに決済データをコピーすることになるが、中央集権型システムでは取引は1回の処理で済む。電話についても同様のロジックが当てはまる。インターネットは、電話やビデオ通話の手段としては最悪に近い。サービス品質のないパケットネットワーク(つまり、インターネット)は、信頼性に欠ける。VoIP通話やビデオ通話は、従来の回線交換による電話よりも品質が低く、信頼性も低い。 だが、インターネットには本質的な欠点があるにもかかわらず、支配的な存在になったのは、インターネットが安価で広く利用可能で、インターネット通信サービス事業者が激しい競争を繰り広げているからだ。 同じことが金融の未来を形作り始めているかもしれない。ブロックチェーンは技術的には中央集権型取引プロセスよりも効率が悪いかもしれないが、激しい競争とイノベーションはコストを削減し、機能が追加されるペースは伝統的事業者には追いつけないほど速い。 ブロックチェーンの取引コストは、すでに伝統的な銀行取引のコストを下回っている。ソラナ(Solana)、アプトス(Aptos)、複数のイーサリアム(Ethereum)レイヤー2などのブロックチェーンは、取引コストを1セントを大きく下回る水準まで削減している。EYが実施した社内調査では、社内の財務取引をすべてオンチェーンに移行できれば、年間1億ドル以上のコスト削減が可能と示されている。