図書館で会話や、軽食もOK 昔とこんなに違う大学図書館の使い方とは
学生がのびのびと集まり、利用率増加
図書館長を務める文学部英米文学科の伊達直之教授は、「急速に進むデジタル化と生成系AIの台頭により、図書館に求められる機能も変化する」と言います。 「わずか数年で、AIのコミュニケーションは、生身の人間と区別がつかないレベルにまで進歩しました。これを道具として使いこなすため、あるいは人間の優位性を保つためにも、高度なデータベースの使い方を学ぶ重要性が増しています。しかし、日本の学生は、海外に比べて情報収集をスマートフォンに頼っているという調査結果も出ています。これでは得られる情報が限定的になってしまいます。本学のラーニングコモンズでは、若者のこうした状況を変えていきたいのです」 魅力的な学びの拠点をつくることで、学生を大学に引きつける狙いもあると話します。 「これまでの青山キャンパスには、学生がのびのびと集まれる施設があまりありませんでした。集まらなくても情報を得たり勉強したりすることはできるかもしれませんが、人間的なコミュニケーションはそうはいきません。マクレイ記念館で目指すのは、グローバルな情報機能とローカルな人間関係の構築です。ここに来れば、違う学部の学生や先輩たち、教員が学んでいる姿を間近に見ることができます。ここに通い続けることで『青学アイデンティティー』が育っていく、そんなことを理想にしています」 実際、図書館がリニューアルされた後の学生の利用率は、旧図書館に比べて300%を超えています。また、卒業生が図書館を使うために必要な利用登録の件数も、コロナ禍からの回復と相まって大きく伸びているそうです。
未来につながる、柔軟な建築に
学生が集まり学びを深める場所であることを意識し、そのための工夫をしていることも大学図書館の特徴です。マクレイ記念館にも、さまざまなアイデアが盛り込まれています。 「空間づくりでは、大学職員と建設会社とで相当な議論を重ねました」と図書課の澤井利恵子課長が言うように、学生の使用目的に合わせたゾーニングがなされています。低層階で刺激を受け、上層階で学びを究め、得られた知見を再び低層階で他者と共有するという“知のスパイラル”をコンセプトに掲げているという。 例えば、ラーニングコモンズのスペース以外にも、教会の側廊をイメージして「アイル」と名付けた学習スペースが各フロアに設けられています。「アイル」は静けさのレベルで3つのゾーンに分けられ、パソコンのタイピング音も制限される「Deep」、会話OKの「Active」、さらに軽食可の「Change」があります。旧図書館のように集中したい学生はDeepへ、友達とグループ学習に取り組みたい学生はActiveなどへ、といった使い分けができるようになっています。 澤井課長は「学生の反応は予想外のことも多かった」と言います。 「グループ学習室はガラス張りで外からよく見えるので、落ち着かないのではと心配していましたが、結果的には多くの学生が好んで使うようになりました。経済学部の学生がホワイトボードに株価のグラフを書いているのを、通りかかった他学部の学生が面白そうに眺めていたこともあります。また、一息つける場所として設定した『Change』エリアが、単なる休憩だけでなく、しっかりグループ学習に活用されているのも意外でした。軽食をとりながら話すほうがリラックスできて、議論も活発になるようです」 伊達教授は、こうした「予想外」はむしろ歓迎だと話します。 「学生や研究者には、われわれの予想からずれていくような自由な使い方をしてほしいと思っています。そのためにも、施設はなるべく柔軟な設計にしたつもりです。動かせない設備や什器で、用途を固定するような『完成形』をつくってしまうことは、予測できない未来の障害になるかもしれません。私たちはその危険性を、この数年の情報コミュニケーション・テクノロジーの変化でとても強く感じました。いまの感覚では少し非常識に思えるような使い方も、ひょっとすると未来につながる学びを生むかもしれないので、温かい目で見守っていきたいですね」 現代の大学図書館はただ本を所蔵した施設ではなく、その大学がどう学生の学びを支えようとしているのかを明確に表す場所です。それはもはや、大学の姿勢そのものを映す鏡といっても過言ではありません。志望校の図書館やラーニングコモンズは、機会があればぜひチェックしておくといいでしょう。
朝日新聞Thinkキャンパス