五十嵐耕平監督作『SUPER HAPPY FOREVER』から考える「記憶」
そう考えていくと、私たちが誰かや何かと出会ったり、何気ない時間を過ごしたりするような、人生のあらゆる時間あらゆる場面は、そのすべてが「忘れたくない奇跡の瞬間の候補」である、ということにも思い至ります。 偶然の出会い。他愛のないおしゃべり。世界の歴史の中で言えばごくありふれた、記憶するにも値しないような瞬間こそが、誰かにとっては人生を通して忘れたくない、奇跡のように特別な時間でもあり得る。そういうことを教えてくれるのがこの映画なのです。 ■「人生の特別な瞬間」について考え続ける作品 さて、ここまで私たちの「忘れたくない瞬間」のことを考えてみました。この何かを「忘れたくない」という心情の奥には、「その存在を無くしてしまいたくない」という切なる想いがあると思いますが、この映画のもうひとつ面白いところは、この「忘れる」ことと「その存在が消えてなくなる」ことの関係をめぐる映画でもある点だと思います。 五十嵐監督はあるインタビューで、よく忘れ物を繰り返す知人とヨーロッパを訪れた時に、その人が携帯を海に落として無くしてしまったエピソードを紹介していました。そして、その知人が、携帯を買い替えた後も折に触れては携帯を見失っては「あれ? 私の携帯どこ?」と度々尋ねてくるそうなのですが、五十嵐さんがそうやって携帯のありかを聞かれるたびに、「いや、あなたの携帯はアドリア海の海の中です」と可笑しくなって、ちょっと嬉しくなるのだと話していました。 このエピソードは、本作における「忘れる」と「消えてなくなる」の関係につながるものだと思いました。つまり、たとえ私たちが何かを「無くしてしまった」あるいは「忘れてしまっていた」としても、その出来事や存在自体が消えて無くなるわけではない、ということ。 これは、何事もすごいスピードで過ぎ去っては忘れてしまう私たちにとって、微かで、しかし確かな希望だと感じました。こんなふうにして、私たちの人生におとずれる特別な瞬間について、ずっと考え続けさせてくれるのが本作の魅力です。
映画『SUPER HAPPY FOREVER』は、福岡ではKBCシネマにて11月3日まで、そして佐賀県シアター・シエマでも近日公開予定です。どうかお見逃しなく!
RKB毎日放送
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