ミュージカルの金字塔『王様と私』が北村一輝と明日海りおで華やかに開幕
ブロードウェイミュージカルの金字塔であり、心弾むナンバー「Shall We Dance?」でも知られる『王様と私』が、4月9日、東京・日生劇場で幕を開けた。東宝制作のプロダクションとしては、実に約24年ぶりという新演出版。『サウンド・オブ・ミュージック』などを世に送り出したリチャード・ロジャース(音楽)&オスカー・ハマースタイン二世(脚本・歌詞)コンビの名曲の数々に乗せて、北村一輝と明日海りおをはじめとした実力派役者陣が、華やかでロマンティックな王道ミュージカルを展開している。 【全ての写真】ミュージカル『王様と私』より (全11枚) 舞台は1860年代のシャム(現タイ)。英国人将校の未亡人で家庭教師として働くアンナ(明日海)は、息子のルイス(木村亜有夢/田中誠人のWキャスト)と共に王都バンコクに到着する。王様(北村)の子息の授業に張り切るアンナだったが、クララホム首相(小西遼生)ら王宮内の旧弊なしきたりには困惑を隠せない。 一夫多妻制で王にかしづく王妃チャン夫人(木村花代)、隣国から献上された踊り子タプティム(朝月希和)らの境遇にも違和感を覚えるアンナ。専制君主としてすべてを采配する王様にとっても、アンナの主張は理解できないものだった。頑固者同士のふたりはぶつかり合うが、子どもたちを熱心に導くアンナの姿に、王様は次第に信頼を深めてゆく。一方、多くの書籍を読み込み確かな知識で議論する王様に、アンナも国籍や性別を超えて友愛の情を育むように。そんな中、イギリスから特使がやってくるとの報がもたらされる。隣国のように植民地にされてしまうのではと恐れる王様に、アンナは西洋式の晩さん会を提案するが……。 物語はほとんどが、中央に高い階段が設えられた、壮麗な金色の王宮を模した舞台セットで展開。北村は少しエキセントリックな声音に“遠い国の王様”の雰囲気を漂わせながら、王ならではの豪華な衣裳を着こなしさすがの存在感だ。国を統べる王としてアンナとしばしば対立するものの、彼女の存在によって自らの心の声を聞き、変わっていく様子を丁寧に表現。初のミュージカル出演だが、安定感のある声質が役どころに重なり、ソロでもしっかりと聴かせる。 明日海は映画版でもおなじみのたっぷりと裾が広がったドレス姿が美しく、バラ色の頬に生き生きとした表情を浮かべてアンナを好演。知性と優しさ、そして王様相手でも一歩も引かない芯の強さを表してハマり役だ。授業の場面で「Getting to Know You」を歌いながら子どもたちに見せる笑顔など、明日海アンナならではの魅力も随所に。家庭教師らしいシンプルなドレスから晩餐会での豪華なドレスまで、品のあるニュアンスカラーの衣裳が次々と登場するのも楽しい(衣裳:有村淳〈宝塚歌劇団〉)。 そんなふたりが「Shall We Dance?」に乗せて踊る有名なシーンは、そびえる舞台セットに繊細な照明が映え、まさに夢のようなひととき(美術:松井るみ、照明:髙見和義)。オーケストラの生演奏もあいまって、王道ミュージカルの華やかさを存分に堪能できる。 次第に絆を深めてゆく王様とアンナに対して、旧態依然としたしがらみから逃れられないのが、踊り子タプティム(朝月)と恋人ルンタ(竹内將人)だ。悲しい恋に身を投じるふたりのナンバー「We Kiss in a Shadow」が胸に迫る。 同じく旧弊な世界にとらわれているチャン王妃役・木村の美しく伸びる歌声や、クララホム首相役・小西の悲哀の表情も印象的。王様の態度にアンナが「ハラスメントよ!」と悔しがるひと幕も含めて、時代の過渡期を生きる人々の戸惑いがうかがえる(演出・翻訳・訳詞:小林香)。その他、彼なりの誠実さでアンナに好意を寄せる特使ラムゼイ卿(中河内雅貴)、アンナを温かく見送るオルトン船長(今拓哉)にも注目だ。