腹八分、勝ちに来るな 21世紀に生きる金言 最強相場師・本間宗久(下)
宗久は「三昧伝」について「この書他見無用のこと」とし、いくら親しい間柄であろうとも他人には見せるなと諭しているが、それにはわけがある。 「この書、懇意の間柄にても必ず必ず見せ申すまじきなり。我一人富まんとするには非ず。この書をよくよく見極めもせず、心安きものに心得、売買致し候えば、手違いになり、時により恨みを受くる故に必ず他見無用のこと。秘すべし、秘すべし。特に三位の伝は天下に稀なる法立てにして知る者少なし。この法に従って売買致すときは、福徳利運にして損するということなし。大切に心得秘蔵すべし。慎むべし。秘すべし」 宗久が「秘すべし」「秘すべし」と念を押すのは、「三昧伝」に従って相場を張れば必ずもうかるのだが、生半可な理解に基づき相場をやって失敗して恨みを買うのはかなわないからだと宗久は言う。決して自分1人でもうけようという魂胆ではないと弟子の中で一番優れた葛岡五十香に伝授する。 いまは、相場金言として広く流布している「腹八分目」もルーツをたどると宗久に行き着く。こう述べている。 「数カ月思い入れよく、八、九分通り仕当たり候うとき、必ず勝ちに乗るべからず。ただ無難に取留めることをもっぱらにすべし。必ず必ず欲を深くし迷うべからず」 相場は我欲との闘いと喝破したのは戦後第1等の相場記者、岩本巌氏の金言であるが、隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望むことの危険を強く主張する。岩本記者も「三昧伝」の伝道者の1人であった。 相場の立会場は人間修業の道場だというわれるのは相場と人生の闘いは多くの共通点があるからだ。 「腹八分目」「勝ちに乗るな」は必須の言葉である。ただ、宗久は別のところでは「利食い腰は強く」と強調しているので、その時々の状況判断をしたのち、乗るか、そるかを決めなくてはならない。相場道の奥の深さを垣間見る思いである。 【連載】投資家の美学<市場経済研究所・代表取締役 鍋島高明(なべしま・たかはる)>