「“陰キャ”とつき合うな――」…念願の「有名私立中学」に合格した中学生男子を待ち受けていた「ヤバすぎる学校生活」
いじめの始まり
やがてクラスは、セキを軸とする人間関係が、そのままクラスのカラーとなるインフルエンシャルなものへとなっていくのにさほどの時間を要さなかった。 それと並行して、このセキを軸とする人間関係のなかで、同級生、そして教員間の間でも、「セキのもっとも近しい親友」「セキの相談相手」とイクミ君が目されるようになる。 このように中学入学時から今日に至るまでイクミ君とセキの縁はますます拭いようのないほどの濃いものとなっていく。そして入学式の翌日以降、ずっとイクミ君はセキとセキが声を掛けた友人らとグループとして行動を共にするようになった。 ある日、イクミ君は自分の席の後ろ側にいた生徒に声を掛けた。ポケモンカードの話題で盛り上がり、友達になれそうだと思った。だが、そうはならなかった。セキがストップをかけた。 「“陰キャ”とつき合うな――」 この言葉でイクミ君は声を掛けた後ろの席の子ともっと親しくなりたいと思っていたが、その可能性はなくなったと悟ったという。同時にイクミ君は、それまでのセキとのつき合いから嫌な予感が働く。 「セキから、クラスの他の奴ら全員に『“陰キャ”のあいつと関わるな』と言われるだろうな……」 その嫌な予感はイクミ君の胸の内をセキが察したのか、すぐに言葉となって現れた。 「イクミ、クラスに“陰キャ”と関わらせないよう、お前、みんなに言えよ。言わないとお前も“陰キャ”だからな――」
セキ中心のクラスへ
こうしてイクミ君はみずからの思いとは裏腹に、“陰キャ”と話をしている同級生がいると、その同級生に近づき、こう耳打ちする。 「おい、“陰キャ”と関わるな。今度、また“陰キャ”と話してるのみたら、お前も“陰キャ”だからな――」 この耳打ちはイクミ君だけではなく、セキを囲む同級生メンバー全員で行われた。そのなかでもセキのグループに入って来てまだ日が浅いタナカがいちばん熱心に同級生たちに耳打ちを行う。 こうした日々は10日間くらい続いた。やがて“陰キャ”といわれた同級生はクラスで浮き上がった存在となり、孤立していく。 ふと“陰キャ”のほうを見ると、つい先日まで温厚で大人しいながらも周囲の同級生と楽しく過ごしていた“陰キャ”が、本当に暗く辛い顔をしていた。 可哀そうなことをしたな――、当時を振り返りイクミ君は、この時、そう思ったという。だが同時に実に率直な告白をイクミ君ママを通してしてくれた。 「セキと自分も含めてセキのグループの考え通りにクラスが変わっていく――」 ときに政治のダイナミズムとは為政者が持つ権力にある。中学校の一クラスといえども、その人間関係は中学生活の思い出を左右する。イクミ君は権力の側、それもそのど真ん中にいるセキの右腕的存在という立場に身震いする思いがしたという。 もっともこの身震いにはふたつの意味があった。ひとつはクラスのなかでも権力の中枢にいるという高揚感とこれからの中学生活への明るい期待、そしてもうひとつはセキの機嫌を損ねるようなことになれば、それこそ“陰キャ”のようにされてしまうという不安だ。 さらに続きとなる記事<いじめを受けながら、「いじめの加害者」として教師から尋問を受けた名門私立中学生男子のヤバすぎる結末>では、イクミ君のその後についてさらに語ります。
秋山 謙一郎(フリージャーナリスト)