定年退職に備えるための5つの鍵とは?
新たなアイデンティティを見つける。
定年は思春期と同様に「アイデンティティ再構築」の時だとシェロンは言う。したがって、マネージャーでも社員でも個人事業主でもなくなったときに、自分はどんな人間であるのか、自分自身に問うことが必要になる。 仕事に行かなくなり、プライベートの時間が増えたとき、私生活は一体どんなものになるのだろう? 「仕事以外で心からやりたいことは何かを考えるべきです。旅行はアイデンティティを満たすには不十分です」と臨床心理士は言い切る。 「エネルギーや関心を向ける方向を変えるのであって、それらを手放すわけではありません」とヴェルドンは言う。「エネルギーや好奇心は無くなりません。ただ、それらをどこか他の場所、別の活動に向けることを考えなければなりません。ある時偶然に出くわすまで待つのではなく」
他の場所で、人の役に立っていると実感する。
この時期に大きく揺らぐものがある。それは自己有用感だ。仕事は共通の利益ために働くという欲求を充足させ、私たちの生に意義を与えてくれるが、定年によってその意義が完全に失われることもある。「非就業者になれば、仕事の世界や社会と、これまでとは異なる関係を結ぶことになります」とヴェルドンは指摘する。 「戸惑わないためには、自分はまだ社会のある部分において現役なのだ、と自分で決めることです。一方で、引退後にはできないこともあるという事実も認めながら」 親や兄弟、身近な友人たちを援助する。非営利団体に参加する。政治問題や環境保全のために活動する......。決意の内容はさまざまだ。しかし、選択は決して簡単ではない。なぜなら決意するためには、いくつもの問いに向き合うことが必要だからだ。たとえば、自分は何に時間とエネルギーを費やす覚悟ができているか? あるいは、自分は何を避けたいと思っているのか? といった、より複雑な問いにも直面するだろう。時間をかけてじっくり考えよう......。
家庭内で:テリトリーの再定義
定年は夫婦にとって試練となる場合もある。ある日を境に毎日家の中で顔を突き合わせることになるが、夫婦ふたりの生活の再開は必ずしも容易ではない。「仕事は夫婦にとってサードパーティーの機能を果たしています。各々がやるべきことや会話の話題を提供してくれるものでもあるのです」とヴェルドンは説明する。 「トラブルの原因になりやすいのは、家庭内でのテリトリーの配分です」とシェロンは言う。「一緒にすること、別々にすることをあらかじめ吟味し、必要なら定義し直さなければなりません。家事の分担を見直し、分離ゾーンを設定する。つまり、どの部屋があなたのもので、どの部屋が自分のもので、どの部屋が私たちのものか、再検討するわけです」 日常生活の変化にスムーズに対応するためには、夫婦の間で、自分たちの関係や、互いの希望、定年後の過ごし方について事前に意見を交わしておくといい、と専門家たちはすすめる。 こうした自問を繰り返すなかで困難を感じても、身近な友人や心理カウンセラーに相談する時間はまだ十分ある。