“共産党は保守”と受け止める40代以下の世代:政党対立でねじれた認識
徐々に掘り崩されていた政治的言説の前提
このような結果を見て驚きを感じる人は、若者の不勉強を嘆きたくなるかもしれない。しかし、その前におさえるべきポイントがいくつかある。第一に、すでにグラフから明らかなように、これは肌感覚でいう「若者」に限られた現象ではなく、40歳代以下の有権者に広く見られる現象である。つまり、有権者の半数に届かないまでも4割以上の人をカバーする人たちが、従来とは異なる政党対立構造を頭に描いている可能性があることを意味する。特定の世代の話ではないのである。 第二に、このような「ねじれた」政党対立認識が生じた理由を考える鍵として、政治的社会化というメカニズムが挙げられる。人々は生まれながらにして政治や政党についての考えを有しているわけではない。政治的な態度や認識は、思春期から20歳代前半までの若い時期に、環境や出来事に影響されながら徐々に形成されていく。この時期に形成された態度や認識は、その後の人生において安定的に持続するというのが政治的社会化といわれるメカニズムである。 2010年代に40歳代だった人たちは政治的社会化の時期を冷戦終結の前後に迎えている。国際政治におけるイデオロギー対立の意義が失われていく時期であり、また、国内政治の状況を振り返れば、1980年代は革新連合政権構想が空洞化していった時期でもある。前の世代が政治的社会化を経験した時期と比べて、イデオロギー的な見方が後景に退いていった時期でもあったため、イデオロギー理解に断絶が生じた可能性がある。 第三に、上記と関連するが、55年体制下の政党対立に比べて、55年体制崩壊後の日本の政党対立は明確ではなくなった。1990年代の政党の離合集散による流動化もその原因であるが、より明確なのは選挙制度改革の影響であろう。小選挙区が中心となる現在の選挙制度では、選挙区の半数の得票を狙うために与野党は政策的な位置を中道に近づける圧力にさらされる。そのため、政党間の政策的な位置はそれ以前に比べて近づくのである。 55年体制下の自民党と社会党との政策の違いはかなり明確であったが、それに比べると2000年代の自民党と民主党の政策の違いを見分けるのはずっと難しくなった。このことは、55年体制下で政治的社会化を経験する若者よりも、2000年代に政治的社会化を経験する若者の方が、政治的対立を理解するときに難易度の高い課題に直面したことを意味する。それゆえ、従来のイデオロギー理解の継承が難しかったと考えられる。 つまり、このような「ねじれた」政党対立認識は最近になって突然生じたことではない。30年以上前から静かに進行していた現象である。従来からのイデオロギー的な政党対立の見方を基にして政党もメディアも研究者も議論をしてきたが、そのような見方を共有するのは有権者のせいぜい6割弱であり、政治的言説の前提は気づかぬ間に大きく掘り崩されていたのである。