リハビリで改善していた身体機能が「娘と同居後」にまさかの…<家族の深すぎる愛情>が招いた悲しい事実
◆家事は「無意識のリハビリ」 家事は、「無意識のリハビリ」です。 たとえば、洗濯物を干すと、腕を上に伸ばす動作や、洗濯物を掛ける際のバランスを保つことで、上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)・三頭筋(さんとうきん)、広背筋(こうはいきん)といった腕や背中の筋肉が鍛えられます。 掃除機をかければ、歩く動作や掃除機を前後に動かすことで、大腿四頭筋、ハムストリングス、腹筋群、背筋、体幹筋群などが鍛えられるのです。 家事をしなくなるということは、そういった筋肉を鍛える機会を奪うことになり、その分、筋力は衰えてしまいます。 体が衰えてきている人ほど、体を動かさなくては危険です。 「時間がかかってもいいから、身の回りのことは自分でするようにしないと、体が弱っていきますよ」と松崎さんにお伝えして、家事の分担を娘さんとしっかり話し合うようにお願いしました。
◆できることを奪われない環境づくり 「仲のいい、家族の同居、要注意」 うまいこと五、七、五でまとまっていますが、これはスタッフのなかでも共通認識としてあり、松崎さんのようなケースは少なくありません。 まだ肉体が衰えていない若い人たちから見ると、時間がかかって危なっかしく、つらそうでもあり、ついつい手を貸したくなる気持ちもよくわかります。 本人も、「家族にやってもらったほうがラク」と思うかもしれません。 しかし、できているのであれば、自分の力でこなしたほうが、確実に老化の予防・改善につながります。 今はラクでも、体を動かす機会を減らしてしまうと、後々老化が進んだときに、もっとつらい現実に向き合わなければならない可能性が高くなるのです。 できることを奪われない環境づくり。 これが、高齢者にとって、肉体的・精神的な老化を予防・改善するためのリハビリとともに、とても大切なことです。
◆介護の3原則 では、どういう環境をつくっていけばいいのか。 それは、介護の3原則がヒントになります。 介護の3原則とは、人が、自分の力で自分らしく過ごすためには、「生活の継続性」「自己決定の原則」「残存機能の活用」が必要であるとうたったものです。 簡単にいえば、それまでの生活をできるだけ維持させる、生き方や暮らし方を自分で決める、自分でできることはやり、現状持っている身体機能をフル活用するということです。 松崎さんの場合は、同居することで、生活が持続できずに、自分ではなく、娘さん主導の生活を送り、自分でできることまで手助けしてもらったため、身体機能をフル活用できない、能力低下を招く環境になってしまったのです。 ※本稿は、『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
上村理絵