ロシアと北朝鮮が新軍事条約:「同盟」に温度差も
問われる中国
新条約とロ朝への対抗措置として、米国の安全保障シンクタンク、「戦略国際問題研究所」(CSIS)は緊急レポートを発表し、(1)日米韓、フィリピンなどが一国への脅威を全体の脅威とみなす北大西洋条約機構(NATO)型の集団防衛枠組みを検討する、(2)日米欧がロシアと同様に、北朝鮮の海外資産を凍結し、北朝鮮による人権弾圧の賠償やウクライナ支援に資産を利用する、(3)中国への外交説得を通じて、ロ朝に対する直接・間接的支援をやめさせる──などの提言を公表している(※3)。 これらのうちで、NATO型の集団防衛は日本の政治的制約などから実現が難しいとみられるが、北朝鮮の海外資産の差し押さえや凍結は即効性が高いといえる。金正恩氏らの隠し資産を探し出すのは容易ではないものの、日米欧の協調と連携を強化して取り組めば、不可能ではないだろう。 一方、新条約について、中国外務省は「2国間協力にはコメントしない」(20日)と否定も肯定もしていない。だが、ロ朝両国との微妙な距離感に加えて、朝鮮半島情勢の緊張や不安定化は中国にとっても決して好ましくないはずだ。何よりも、「責任ある大国」を目指す上で、ロ朝の軍事協力に同調するような外交があってはならない。 韓国と中国はプーチン氏訪朝の前日、外交・防衛高官による「外交・安全保障対話(2プラス2)」をソウルで開催し、中韓関係の改善や半島情勢を巡って話し合ったばかりだ。日米韓や欧州はこうした点も踏まえて、中国に対する説得をあらためて強化する必要がある。
注釈
(※1) 6月22日07時05分、時事通信「ロ朝『同盟』に温度差 介入条項に解釈の余地」。 (※2) 6月19日AP通信、“What’s known, and not known, about the partnership agreement signed by Russia and North Korea,” By Kim Tong-Hyung and Jim Heintz,AP, 2024/6/19 (※3) “The New Russia-North Korea Security Alliance: Critical Questions,” by Victor Cha and Ellen Kim,CSIS, June 20, 2024.
【Profile】
高畑 昭男 公益財団法人ニッポンドットコム理事。1949年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒。毎日新聞北米総局長、同論説副委員長、産経新聞特別記者兼論説副委員長、白鴎大学教授などを経て2022年より現職。著書に『「世界の警察官」をやめたアメリカ』(2015年、ウエッジ)など。