東京・日野市で「大規模データセンター計画」 近隣住民の不安のワケは?
スマートフォンは1人1台が当たり前の時代となり、生成AIやIoTなどデジタル技術の革新が進む今、膨大な情報を蓄積するために必要な「データセンター」の需要は急速に高まっています。こうした巨大なデータセンターの建設計画の1つが、東京・日野市で持ち上がっています。しかし、住民からは建設に対し不安の声が上がっています。住民説明会は紛糾し、住民らはデータセンターの影響について勉強会を開くなど、事業者側との対立にまで発展しつつあります。日野市で計画が進む「データセンター」の建設について、TOKYO MX『堀潤 Live Junction』キャスターでジャーナリストの堀潤が取材しました。 日野市に住む女性から、番組宛てにこんな映像とメッセージが届きました。 『私の住んでいる日野市で大規模なデータセンター計画があります。日陰問題、電磁波、低周波、風など、たくさんの問題を抱えています』 今回、建設が計画されている場所は日野市日野台にあるおよそ11万平方メートルの敷地で、この場所には元々トラックやバスの製造大手・日野自動車の工場がありました。開発を手がける事業者は、不動産大手の三井不動産です。現在は市への開発基本計画などの申請を済ませ、およそ2年後となる2026年11月の工事着手、2031年2月の完成を目指しています。 この計画に何を思うのか、番組に情報を寄せた清水さんに話を聞きました。今回、番組に連絡した一番の理由・懸念について尋ねると、清水さんは「すぐそこが住宅地。住宅地のすぐ隣に高さ80メートル、最新の計画で72メートルになったが、建物ができると聞いた時、そんな大きなものが住宅地のすぐ隣にできて、近くに住んでいる人が大丈夫なのかなと思った」と答えました。 住民から不安の声が上がる理由の1つが、データセンターの大きさ、そして住宅との距離です。隣接地も含め、計画地の周辺には住宅地が広がっています。事業者が日野市に申請している計画内容によりますと、敷地内には3棟の建物の建設が予定されていて、事業者側は住宅地との間には公園や遊歩道などを整備し、圧迫感が減るように配慮する方針です。ただ、建物の高さは超高層マンションに匹敵するおよそ72メートルになる計画で、この地域における住宅の高さ制限の7倍以上に当たる高さの建物が建設されることになります。 建設予定地のすぐ近くに住む人からは「高い建物は困る。高さが気になりますよね。日当たりとか関係するし。近隣住民としては日照権ですよね」という声も聞かれました。その一方で「私は全然、別にどうぞっていう感じ。それで誰かの働き口ができるのであればいいかなと思う」などと、計画を受け入れるという声も聞かれました。 住民の間でもさまざまな意見がある中、番組に情報を寄せた清水さんは、計画に不安を感じるもう1つの理由に「事業者側の対応」を挙げます。完全非公開で行われたという住民説明会について清水さんは「対立ではなく対話の時間になればと思ったが、正直なところ、対話ではなかった。消費電力のこともCO2のことも電磁波のことも水のことも質問が出たが、全て『機密事項だからお知らせすることはできない』と言われてしまった」と話します。 <住民説明会 「守秘・未定」に紛糾> 番組は住民説明会の音声を独自に入手しました。音声には情報を求める住民側と、情報を出せないという事業者側の応酬が記録されていました。 近隣住民:「なぜCO2と電力について公表しないのか。お客さんも大事だけど一番大事なのは日野市民。これを隠して工事を進めようというのはとんでもない。だからもう1回この説明会をやって、この数字を出してください」 事業者側:「(電力の)使用料や(CO2の)排出量の提示という依頼には、守秘性の観点から数字はお出しすることはできません」 住民側の「使用する電力量」や「CO2の排出量」についての質問に対し、事業者側は「データセンターの守秘性の観点から公表できない」という回答に終始しました。また、電力については周辺住民の供給に影響が出るものではないとし、CO2排出量についても生活に影響を与える可能性は低いと説明しました。 さらに、データセンターの冷却方法についての質問については… 事業者側:「冷却方法は、現時点で詳細については未定です」 「現時点では未定」との返答にとどまりました。 住民説明会に参加したという米内さんは「あれは対話ではなく、一方的な質問と一方的な答えで、すれ違っている。未定であるとか検討中であるとか秘匿条項であるとか。聞けない、分からない」「説明会といっても知りたいことに答えてもらえない。これは説明会とはいえない」と語り、「過去3回の説明会はどれも住民側が納得するものではなかった」と話します。 <データセンター計画“住民不安”に日野市長は> この住民説明会に対し、日野市は事業者が提出した報告書を受理し、説明会は「適切に行われた」という判断を示しています。 では、説明会に参加した住民の不満の声について、市はどう考えているのでしょうか。市長がTOKYO MXの取材に応じました。記者からの「現状について事業者側の対応、市から求めている不安解消について十分か。それとも今後もやっていかなければいけない状況か」という質問に対し、日野市の大坪冬彦市長は「おっしゃる通りデータセンターは機密性が高いので、情報をすぐ出してもらえるような状況ではない状況が続いている。だんだん小出しにしていくのだろうが、その点がやはり住民に対する不安をよりあおってしまうことはある。当然、それについては必要な情報開示するように事業者には私どもとしてはお願いし、指導していくことは考えている」と答えました。 12月13日には事業者側から建設に向けた「事前協議申請」が出され、市の担当者との間で協議が始まっています。 一方で住民側は周辺地域の住民向けに、環境問題の専門家を迎えてデータセンターの影響について勉強会を実施するなど、事業者側との対立にまで発展しつつあります。勉強会に参加した人たちは「いまの話の流れでは中止は難しいと思うが、中止にしてもらいたい」「市民・行政・事業者でよく協議をして解決の道筋を作らないと、とんでもないことになると思う」などと話していました。また、1月には情報を開示しない建設計画への反対を訴える住民団体が発足することになっていて、米内さんはこの計画を広く知ってもらうため、市民活動に注力する意思を固めています。米内さんは「まだこれからの方針ややることがいっぱいあり時間もかかるので みんなで相談をして進めていきたい」と話しています。 計画の今後について事業者の三井不動産はTOKYO MXの取材に対し、文書で次のように回答しました。 「引き続き、各種法規制にのっとり、近隣の皆さまのご意見や要望を受け止めながら、各関係行政とも相談の上、施設計画の検討を進めてまいります」