忍者の里を越えたら韓国寺院。知られざるニッポンの異教世界
近年、日本では在日外国人の数が大きく増えたことにより、さまざまな国の人たちが日本国内に自分たちの信仰施設をつくるようになった。宮城のモスク、茨城県下妻のヒンドゥー寺院、伊香保温泉の台湾寺院……ルポライターの安田峰俊氏は、日本人の知らない“国際化”をレポートしてきた。そんな安田氏が京都の南山城村にある韓国寺院、高麗寺に向かった。韓国寺院設立の背景にある在日の歴史、そして異教社会の現在地とは。 【画像】高麗寺の敷地内にある龍王閣。紅葉の季節だったこともあり、韓流ドラマ感がすごい。(写真:Soichiro Koriyama)
忍者の峠
←伊 賀 童仙坊→ 甲 賀 ↓ つくづく、ものすごい看板だった。このとき、私たちがいた場所は京都府南東部の山中にある三叉路……。だが、行政上の地名はあまり意味がない。このあたりは、三重県・滋賀県・京都府の境界が入り組んで接している、通称「三国越」(みくにごえ)。すなわち、忍者の里である伊賀と甲賀を結ぶ秘境の峠なのだ。 道幅は車両一本分しかなく、しかも歪んでいた。甲賀側の多羅尾集落を出て以来、対向車がまったく来ないのは助かったが、逆に言えば路肩に転落するとそのまま誰にも見つからないということだ。山深い峠道の路面には湿った落ち葉が散らばり、苔むしている。路面状況が悪すぎるので、この季節は峠を攻めるライダーもあまり来ないようだ。 私たちの行き先の住所も、京都市南山城村童仙坊という、いかにも浮世離れした地名だ。わずかな案内看板を頼りに進むと、「高麗ハウス」と日本語とハングルで書かれた寺務所が、山中に突如出現した。韓国仏教(禅宗)の日本にある総本山・高麗寺である。本堂のほか個々の建物は比較的こじんまりしたものも多いものの、墓地も含めると約6万坪の敷地があるらしい。
法人代表は在日2世
「どうも、トミナガです」 このシリーズの取材(異国宗教施設の取材)ではめずらしく、完全にネイティブの日本語で出迎えられた。ただ、2枚差し出された名刺の1枚には、日本名ではなく「崔炳潤」と韓国名が書いてある。こちらが問う前に「われわれは名前がふたつあるんですわ」と説明された。現在83歳の彼は、和歌山県生まれの在日2世だ。 「むかしの時分は、差別もあって自分たちが在日だということは言いたがらない人やら、日本国籍への帰化を選ぶ人も多かったんですが。いまの30代から下くらいの人は、普通に本名を名乗るしルーツも隠さないんですわ。『韓国人かっこいい』て、日本人の若い人から言われるようになったりたりね。信じられませんわ。不思議なもんです」 崔氏は僧侶ではなく、宗教法人としての高麗寺の代表役員で、住職は別にいる。ただ、元在日であるという日本人住職は他にも寺を持っており(日本の臨済宗寺院らしい)、曹渓宗の韓国人僧も普段は本国にいるため、俗人である崔氏たちが実質的には寺を見ている。