あえて「棄権」や「白票」は不本意な政治家を黙認することになる。「投票したい人がいない」とお嘆きのあたなに
■支持政党なしと答える人が増える理由 とりわけ自称リベラルの、本当は不寛容な政治関心の高い層の人々は、「なおも与党に投票する人々がいるとは、もう救いようがない」などと嘆息をついて、それでいて正論めいたことだけを言って、「このままでよいとは思えないけど」と心がザワザワしている人たちに疎まれて、民主政治の仲間をつくることに失敗し続けています(拙著『なぜリベラルは敗け続けるののか』集英社インターナショナル、2019年)。
政権党への文句は百万も口にしますが、やることは悪口や批判をすることばかりで、苦しい中で自ら汗をかいて野党を育てる努力と工夫をしている人たちは、本当に一部しかいません。正しかろうことは口にしますが、「そんなやり方で人の心が開くはずがない」みたいな選挙応援をし続けているのです。 雨が降ろうと槍が降ろうと、在野勢力に投票するという「固定客」の方には、適宜お声がけだけしていれば大丈夫です。いつもの定番の与党批判と少数派の擁護と平和への想いを語れば、安心してくれるからです。
しかし、それでは投票に行かない人たちを仲間にすることはできません。与党の支持率がどれだけ下がろうと、彼らを脅かす野党の支持率は上がりません。支持政党なしと答える人が増えるだけです。 こうして政権党の政治家たちは助けられています。無党派や、投票されない、カウントされない声はそのまま、今の世界を黙認しているものとして扱えるありがたい信任投票になるからです。 かつて支持率が消費税率と見間違うほど低くなった不人気総理大臣は、選挙中の会見で愚痴をこぼし「(選挙に関心のない無党派層は)寝てしまってくれればいい」と実に正直なことを漏らしてしまいました。でも、これは現在政治権力を運用している人たちの本音です。
■現行の選挙の不思議なルール 元総理大臣はいい人だから本当のことを言ってしまったのです。政治における意思表明は、常に相対的比率として数値化されてしまいます。議会の議席を6割近くも取っている政党が、実は20%程度の人たちの支持でも政権党になりうるというのが、現行の選挙の不思議なルールです。 そこでは、あくまでも「声を上げた人たち」(投票者)のパーセントで勝負を決めますから、「黙っていた人」抜きでのゲームとなります。100人中99人が棄権すれば、たった1票のイエスだけで多数決は可能になります。非情なる鉄則はこのように巧妙な形で、真面目でピュアな怒りでゲームを抜けた人々を利用しているのです。