なぜ五輪5連覇を狙う伊調は川井に敗れたのか?そして東京五輪切符に関わるプレーオフの行方は?
レスリングの明治杯全日本選抜選手権の最終日が16日、駒沢体育館で行われ、女子57キロ級決勝は、五輪4連覇中でリオ五輪58キロ級金メダリストの伊調馨(35、ALSOK)とリオ五輪63キロ級金メダリストの川井梨紗子(24、ジャパンビバレッジ)が対戦。年末の全日本選手権では残り10秒で逆転され2-3で敗れていた川井が、今度は伊調を6-4で破って“リベンジ”を果たした。これによりメダル獲得者が東京五輪代表に内定する世界選手権(9月、カザフスタン)の代表は、7月6日に行われる代表決定プレーオフ(埼玉・和光市体育館)に持ち越された。 何が勝負の行方を決めたのか。複数の関係者が指摘するのが、第2ピリオドで川井がタックルからアンクルホールドへと展開し、2点、さらに2点と得点を重ねた場面だ。この時点で、川井は第1ピリオドの1点とあわせて5-0と大きなリードを奪うことに成功した。 ソウル五輪フリースタイル48キロ級金メダリストの小林孝至氏は、この重要なポイントへの伏線は「静かに見える第1ピリオドから始まっていた」と指摘する。 「お互いにパッシブ(消極性の指摘)がついて、アクティビティタイム(※強制的に得点をするためのルール設定。審判からパッシブを2回以上指摘された選手に課され、課された選手が30秒以内に得点できないときは相手に1点入る)からの得点しか点数は動いていません。しかし、川井選手が伊調選手のスタミナを奪いに来ているのが分かります。点数が動かないので地味に見えるかもしれませんが、あの攻防はとても疲れる。もちろん、伊調選手だけでなく川井選手もとても 疲れます。自分の身を削ってでも、川井選手は相手の体力を削りにきたのです。その戦略がピタリと当たりました」 互いに頭をつけあっての激しい組み手争いの攻防に“伏線”があったというのだ。 その後、1-0から始まった第2ピリオド冒頭、川井が先にタックルを仕掛けた。過去の試合展開から考えると、相手のタックルに対応してカウンターを取ることが得意な伊調の得点パターンになる場面だった。レスリング教室「八戸クラブ」での伊調の恩師・沢内和興さんも「馨なら返して得点するはずの場面」と言う。ところが、伊調はうまく対応できず両者とも点に結びつかないまま終わる。