JR東海リニア「名古屋―新大阪」着工時期の矛盾 国がゴリ押し「2037年全線開業」高いハードル
では、JR東海は2037年の全線開業という国の要望をどう捉えているのだろうか。この点についてJR東海に問い合わせたところ、以下のような回答が得られた。 「中央新幹線計画は当社が自己負担で進めるプロジェクトであり、民間企業として経営の自由と投資の自主性のもと、健全経営と安定配当の堅持を大前提に計画を完遂することとしています。名古屋以西については、低金利状況を生かした長期、固定かつ低利の財政投融資を活用した借り入れにより、名古屋開業後連続して、大阪への工事に速やかに着手し、全線開業までの期間を最大8年前倒すことを目指す方針としています。トンネル掘削工事に着手できないまま、契約の締結から既に6年半以上が経過している南アルプストンネル静岡工区の状況を踏まえると、名古屋・大阪間の工事スケジュールにも自ずと影響が生じることになる可能性があるのではないかと考えており、現時点では、まだ全線開業時期について申し上げられる段階ではありませんが、まずは名古屋までの工事に全力を尽くしてまいりたいです」(太字は編集部による)
■新内閣は「2037年開業方針」どうするか JR東海の担当者は「歯切れが悪い回答で申し訳ない」と恐縮していたが、趣旨はわかる。要するに2037年開業は難しいという意味だ。JR東海の置かれた状況を考えればそれが妥当だ。拙速な工事は禁物だ。「民間企業として経営の自由と投資の自主性」という部分からは、スケジュールについては自主的に決めたいと主張しているように読める。 また、三重、奈良両県でのボーリング調査をもって環境影響評価に着手したのかという点も聞いてみた。これについては、「環境影響評価の調査には動植物をはじめとする自然環境のように時間とともに変化する項目があることから、名古屋開業時期を見据えて進める必要がある」という回答があった。配慮書の作成、公表といった本来の環境影響評価の手続き開始については名古屋開業時期が決まってからという意味にとれる。
その意味で、ボーリング調査開始をもって「環境影響評価に着手」したといっても、ここからその後のスケジュールについて予測するのは難しい。 岸田首相は退陣を表明しており、9月27日には自民党総裁選挙が実施され、次の首相が決まる。新内閣も2037年全線開業という方針を堅持するのか。それとも、より現実的な解を探るのか。少なくとも、リニア中央新幹線が政治に翻弄されるという事態があってはならない。
大坂 直樹 :東洋経済 記者