ナイトゲームやアルコール提供…“新しい大会”演出に懸命 「国スポ」佐賀で5日開幕
国民体育大会から名称が変わった「国民スポーツ大会」(国スポ)が5日、佐賀県で開幕する。開催地の重い負担を理由に廃止論も出る中、時代に対応した在り方を検討する抜本的な議論が始まったばかり。国スポとして初の開催地になる同県は「新しい大会」の演出に懸命になる。岐路に立つ国内スポーツの祭典は、存在意義を示せるのか。 「今度は練習を見に来てね」。国スポの会期前競技中だった9月22日、佐賀市が同市文化会館で開いたカヌーの体験会。佐賀県カヌー協会の森田純至理事長(67)は数人の子どもたちに優しく語りかけた。 国スポのカヌー競技の一部は今月11~14日に市内で開催。それに向け、競技の魅力を多くの人たちに知ってもらおうと、市が体験会を企画した。親子連れなど66人が集まり、カヌーのマシンをこぐなど楽しんだ。 県内のカヌーの競技人口は100人弱と少ない。「関心を持つ人が増えたらうれしい」。そう話す森田理事長にとって、国スポは裾野拡大のまたとないチャンスに映る。「地元からたくさん応援に来てくれて、注目度が他の大会と違う。貴重な機会です」 ◇ ◇ 競技団体には有意義な国スポも、持ち回りで開催地になる都道府県から見たら様相は異なる。 「都道府県の負担軽減や大会の魅力向上などを通じて持続可能な大会を目指す」「大会の意義や在り方をゼロベースで再検討する」。全国知事会は8月、大会見直しの提言をまとめた。 提言では、毎年開催の維持を前提に、複数都道府県の広域開催や施設整備が難しい競技会場の固定を可能とするよう訴えた。大会の簡素化や人的負担の軽減を図った上で、国や日本スポーツ協会に半分以上の経費負担も求めた。同協会は9月から有識者会議で抜本的に議論し、年度内に方向性を理事会に提言する。 議論の背景には、開催地の負担がある。戦後の混乱期の1946年に始まった大会は、持ち回りの2巡目が2035年に終わる。人口減で地方財政が逼迫(ひっぱく)する中、国際水準の施設など大会運営の負担増大や、天皇杯のかかる総合優勝を目指す開催地の過剰な強化など、ひずみが顕在化。今年4月に全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事が「廃止も一つの考え方」と発言するなど、全国の知事から見直しを求める声が相次いだ。 ◇ ◇ そんな中で開催地になった佐賀県は「新しい大会へ。すべての人に、スポーツのチカラを。」とスローガンを掲げる。五輪のような自由な雰囲気の開閉会式や選手個人の表彰、ナイトゲーム、一部会場のアルコール提供などの試みを導入。山口祥義知事は「国体と同じではなく、新たな形をつくっていくべきだ」と語る。 一方、そもそもの課題は解消されていない。県は準備・運営などの費用に累計約157億円を投入。メイン会場になる佐賀市のアリーナとスタジアムは大会後も見据えて総事業費約540億円で整備した。県職員約3100人のうち、4月時点で128人が国スポに専従。県庁内からは「県を挙げた一大イベント」(県幹部)との声が出る。 一橋大スポーツ科学研究室の坂上康博名誉教授によると、パリ五輪の倍に近い選手約2万人が参加する国スポは、開催地の負荷が大きい。「健康増進とスポーツ振興という原点に返った根本的な見直しが不可欠」とし、今大会には「新たな取り組みが『全ての人にスポーツの力を浸透させる』という目標にかなったか検証すべきだ」と指摘する。 (田中早紀)
国民スポーツ大会
1946年、国民に勇気と希望を与えるため、国民体育大会として始まった。都道府県で持ち回りの開催は88年から2巡目で、2036年に3巡目に入る見通し。佐賀県は、新型コロナ禍で20年に中止された鹿児島県に23年を譲り、今年に延期。9月5日からの会期前競技を含め、10月15日まで37の正式競技が県内20市町で実施される(一部は県外)。