トルコ国民投票、エルドアン独裁化へ拭えぬ懸念 EU加盟国との軋轢も
議院内閣制から実権型大統領制に移行
暫定的とはいえ、国民投票でトルコ国民は「可決」という選択を行った国民投票の正式な結果は2週間以内に発表される見通しだが、可決が正式に確定すると、そこから憲法改正に向けての動きが本格的にスタートする。 現在のトルコは議院内閣制で、名誉職型の大統領には政治的な中立が求められ、特定の政党に所属することは禁じられている。しかし、憲法改正によって、トルコの政治体制はアメリカのような実権型大統領制に移行し、閣僚の任命や罷免を行う権利は、議会から大統領に移されることになる。また、大統領の権限が強化されるため、首相というポジションが廃止される可能性も浮上しており、エルドアン大統領は歴代のトルコ大統領に与えられなかった権力を手中に収めることになる。 トルコでは1980年のクーデターで軍政が敷かれたが、1983年に民政移管が完了し、1989年には文民出身のトゥルグト・オザルが大統領に就任。以来、歴代政権は軍との関係に気を使いながらも文民政治を30年近くにわたって続けてきた。 国民が投票によって直接大統領を選ぶ大統領選挙が行なわれた2014年、それまで11年にわたって首相を務めていたエルドアン氏が「大統領による国家運営がよりなされるべき」と主張して立候補。それまで、トルコの大統領は儀礼的な意味合いの強いポジションで、実質的な国家のトップは首相であったが、「強いリーダーとしての大統領の誕生」を有権者にアピールしたエルドアンは大統領選に圧勝。そして、16日の国民投票を経て自身の権力基盤をさらに強化しようとしている。
国民投票の暫定的な結果を受けて、EU加盟国の間ではエルドアン大統領が独裁体制を敷くのではという懸念が早くも生じており、欧州委員会は「憲法改正を行う前に、より幅広い国民の同意を模索すべき」との声明を発表。加えて、不正投票の可能性が指摘されている点についても、国際選挙監視団の評価を待つ姿勢を見せている。 オーストリアのクルツ外相は、「トルコの国民投票の結果はEUに反対する明らかなシグナル」と語り、トルコのEU加盟に反対する立場を明確にした。在住トルコ人有権者の6割以上が賛成票を投じたドイツでは、メルケル首相が「国民投票の結果は、トルコ社会がいかに政治的な分断状態に直面しているかを表した」とコメントした。 EU加盟やシリア問題、ロシアとの関係などもあり、ヨーロッパ各国ではトルコ情勢が注視されているが、トルコ社会の分断は周辺国にどのような影響を与えるのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト