トルコ国民投票、エルドアン独裁化へ拭えぬ懸念 EU加盟国との軋轢も
トルコで16日に行われた国民投票は、大統領の権限強化をトルコ国民に問うもので、エルドアン大統領が権力基盤を固めるのか、国民投票可決後のトルコにどのような変化が生じるのかといった点に注目が集まったが、僅差で「賛成」が過半数を上回る結果となった。国民投票に是が非でも勝利したかったエルドアン大統領は、在外トルコ人の票も確実に手中に収めるために、ドイツやオランダ在住トルコ人が開いた政治集会に現役閣僚らを送り込もうとしたが、それぞれの国で入国を拒否されたため、トルコと西ヨーロッパ各国で軋轢が生じる一幕もあった。国民投票に勝利したエルドアン大統領が、独裁化の道を歩みだす危険が早くも懸念されている。 【写真】トルコの「クーデター失敗」 一番得したのはエルドアン大統領?
都市部では「権限強化」に反対が多い
投票率が80%を超えたトルコ国民投票。大統領の権限強化を柱とした憲法改正への賛成が51.3%で、反対が48.7%という暫定結果が発表された。現時点で約60万票の開票作業が終了していないものの、2週間以内に最終的な結果が発表される予定だ。トルコメディアの分析によると、保守層が多く暮らす黒海沿岸と内陸部では憲法改正に賛成する有権者が多く、いわゆる「世俗派」が多いエーゲ海側では憲法改正に反対票を投じた人が多かった。エルドアン大統領は16日夜、すでに勝利宣言を行ったが、野党は不正投票が行われた可能性を指摘しており、国民投票の結果をめぐるトルコ社会の動きはしばらく混乱を極めそうだ。 興味深いのは、トルコの3大都市(イスタンブール、アンカラ、イズミル)では、大統領権限の強化に反対する市民が多く、反対票が過半数を上回る結果となった。イスタンブールで生まれ育ち(両親はトルコ東部のリゼ出身で、ジョージアからの移民であったという説もある)、過去にイスタンブール市長を務めたこともあるエルドアンだが、国民投票の大勢が判明した16日夜にはイスタンブール市内の複数の場所で市民らが反エルドアンデモを行った。
在外トルコ人票をめぐり西欧でトラブル相次ぐ
是が非でも国民投票で勝利したいエルドアン政権は、トルコ国外で暮らす有権者にも目を向けていた。トルコ外務省のサイトによると、国外で暮らすトルコ人は550万人以上。そのうち約460万人が西ヨーロッパ諸国で生活している。西ヨーロッパのトルコ人には、現在暮らしている国と母国であるトルコの二重国籍を保有する者も少なくない。 ドイツだけで約250万人のトルコ国籍を有する者が暮らしており、フランスには約55万人、オランダにも約40万人のトルコ人がいる。「選挙区」として考えた場合、ドイツはイスタンブールやアンカラに次いて4番目に大きい。西ヨーロッパ諸国で暮らすトルコ人は選挙や国民投票において少なからぬ影響力を持っているのだ。ドイツ国内のトルコ人有権者だけでも軽視できない数で、約250万人のトルコ人が暮らすドイツおける有権者資格を持つ者は約140万人とされる。 国民投票によってエルドアン政権の権力基盤が強化されることを懸念していた西ヨーロッパ各国は、自国内で暮らすエルドアン支持者による集会の開催には難色を示し、ドイツやオランダでは「安全上の理由」から集会の規模などに規制が設けられることもあった。また、在外投票を重要視するエルドアン政権がドイツやオランダの集会に閣僚を派遣し、エルドアン支持を訴えるやり方もかねてから問題視されていた。 オランダでは選挙直前の3月11日、ロッテルダムで予定されていたトルコ人らによる改憲支持集会に参加しようとしたトルコ外相の空路での入国に政府が許可を与えなかった。また、陸路でオランダ入りした家族・社会担当大臣は、領事館の入り口前でオランダ警察に制止され、警察の護衛でオランダを強制的に出国させられた。 かねてから西ヨーロッパ諸国に対して批判的な言動を繰り返してきたトルコのエルドアン大統領は、オランダ政府の対応に激怒し、オランダやドイツ政府を「ナチスの残党」と呼ぶ暴挙に出ている。3月13日にはイスタンブールで、オランダ領事館にトルコ人が侵入し、オランダ国旗を引きずり降ろして、トルコ国旗を掲げる事件まで発生している。 西ヨーロッパで問題視されたのは、トルコの現役閣僚による集会の参加だけではなかった。トルコのチャウショール外務大臣は3月23日、スイスのベルンで現地のトルコ人社会の代表者らと会談を行ったが、その際に「西ヨーロッパでトルコの政治家が入国を妨害されるケースが増えている」と、西欧社会に対する不満を口にしている。しかし、同じ日にスイスのビュルカルテ外務大臣と会談を行ったチャウショール大臣は、トルコ政府がスイス国内で暮らすトルコ人の政治思想などをチェックしていたことに触れられ、「スイス国内で違法なスパイ行為は即刻やめていただきたい」と警告されていた。