ウクライナ、ナチスドイツの「クルスクの泥沼」の轍を踏むか
[ハンギョレS]地政学の風景 クルスク侵攻の歴史 第2次世界大戦時のヒトラーの軍隊 スターリングラード惨敗後の反撃の拠点 西部戦線から戦力を抽出して没落を加速 ウクライナ、既存の戦線まで崩壊の懸念
ウクライナが6日に突如国境を越えて侵攻したロシア西南部の都市クルスクは、第2次世界大戦の勝敗を決定づけたところだ。そのクルスクがウクライナ戦争の様相を決める地として再浮上した。第2次世界大戦時のスターリングラードの戦いで惨敗して守勢に追い込まれたナチスドイツは1943年7月、旧ソ連のクルスクで反撃を試みたが、またも惨敗した。史上最大の機甲戦であるクルスクの戦いで、ドイツは戦車のほとんどの戦力を投入したが消耗し、再起不能に陥った。ウクライナの今回のクルスク侵攻作戦は、当時を連想させる既視感を与える。 アドルフ・ヒトラーはスターリングラードでの敗戦後、自国民と同盟国に、ナチスドイツはまだ健在であり戦争遂行能力があることを示すことを望んだ。すでに東部戦線全域で劣勢だったドイツ軍の守勢を反転させようと選択した場所がクルスクだった。ナチスドイツは第2次世界大戦初期のころ、強力な機甲戦力と大規模な空軍力を前面に出した「電撃戦」で常勝疾走したが、スターリングラードの市街戦では歯が立たなかった。クルスクは平原地帯だ。そこでヒトラーは、そこに戦車などの機甲火力を集中させ、ソ連の戦線を突破して押し崩そうとした。 ■ウクライナの勝負の賭けは通じるか 当時のクルスク一帯の戦力はソ連が西側に突き出た形で、防御に脆弱な形勢だった。ドイツの最高指揮部は、北と南から攻撃し、西に突き出た戦線にいたソ連軍を孤立させようとした。ドイツの将軍たちはこの作戦に反対した。スターリングラードの戦い以降、ソ連に兵力と資源で押されていたため、「戦略的防衛戦」を行う必要があると主張した。兵力と資源が優勢なソ連軍に消耗戦で巻き込まれると、戦闘で勝っても戦略的勝利は担保されないとみたのだ。 しかしヒトラーは、フランスなどの西部戦線にあった兵力と資源まで引き抜き、クルスクに投入した。1943年7月5日に「城塞作戦」という作戦名で始まったドイツの攻撃は、わずか1週間後の12日に「クトゥーゾフ作戦」で始まったソ連の「クルスク戦略攻撃」に直面し、急速に威力を喪失した。 これに先立ち、クルスクの戦いが始まってから4日目の7月9日、連合軍がイタリア南部のシチリア島に上陸した。ヒトラーはクルスクの戦いの1週間後に攻撃を取りやめ、兵力をイタリアに再派遣しなければならなかった。ソ連の反撃によってドイツ軍に残されていた精鋭の機甲戦力はあっけなく崩壊した。ドイツはクルスクの戦いを行うために西部戦線の兵力を回したため、西部と東部の両方が崩れた。クルスクでドイツは約40万人前後の死傷者を出し、約1000台の戦車と約700機の戦闘機を失った。ソ連はそれ以上の損失を被ったが、戦時経済体制を拡張することで、被害を克服できた。仮にドイツがクルスクの戦いを行わず、戦略的防衛を選択したとすれば、ソ連の進軍はかなり遅れただろう。ソ連のベルリン占領も、第2次世界大戦後の東欧圏の社会主義化も不可能だったかもしれない。 2022年2月に始まったウクライナ戦争は、同年11月からロシアの「占領地固め」に入った。ロシアは東部と南部の戦線で防衛線を構築し、戦略的防衛戦で西側の支援を受けたウクライナの反撃を防いだ後、今年の初めからは再反撃に出た。ロシアは基本的に消耗戦を進め、ウクライナはこれに巻き込まれた。ウクライナは今年初めから既存の戦線で押され、成果を上げる可能性がなくなると、クルスク侵攻作戦という劇薬を処方した。 従来の戦線にいた精鋭の兵力を引き抜いてクルスク作戦に投じた。すでに見込みがなくなった既存の戦線でさらに損失を被ったとしても、ロシアの領土を占領してテコとして活用するという戦略だ。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、自国軍が侵攻した地域を「緩衝地帯にする」と公言した。この作戦が成功するためには、クルスクでの進撃した地域を「占領地」として固めなければならない。そのためには、ロシアの反撃を防ぐ追加の兵力と資源が投入されなければならない。何よりも制空権が必要だ。 しかし、空軍力で圧倒的優位に立つロシアは、ウクライナ軍がクルスクに進入した経路にあたるスームィ地域を激しく爆撃している。クルスクに進撃したウクライナ軍が孤立する可能性があるという見方も出ている。何より、ドネツクをはじめとするウクライナの東部など、すべての戦線でロシアの攻勢が激化し、侵攻が速まっている。 ■ロシア、「消耗戦」で勝機を固めるか 米国の軍事・戦略評論誌の「レスポンシブル・ステイトクラフト」は15日、専門家10人にウクライナのクルスク作戦について尋ねた。10人全員が「ウクライナ側にとって戦術的、戦略的に否定的」だと評価した。そのうち1人だけが「心理的なレベルでの西側の関心」を有利な点として挙げた。専門家らは全員、今回の作戦がもたらすウクライナの戦力消耗、既存戦線の崩壊、ロシアの態度の強硬化などを懸念した。ドイツのクルスクの戦いと同様に、ウクライナもクルスクで戦力を消耗し、既存の国内戦線も崩壊する可能性があるというものだ。 西側のウクライナ戦争支援に批判的な立場で有名な、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の言葉を引用する。 「ウクライナの(クルスク)侵攻は、敗戦を加速化する大きな戦略的失策だ。消耗戦での成功の決定要因は、領土の占領ではなく死傷者などの損失の割合だが、西側はこれを見落としている。クルスクでの損失の割合は、ロシアに2つの点で決定的に有利だ。一つ目は、ウクライナ軍はほとんど守られていなかった領土に踏み込んだため、ロシアも死傷者が出なかった。二つ目は、ロシアはすみやかに攻撃に切り替え、圧倒的空軍力を動員し、露出して打撃しやすいウクライナ軍を攻撃している。問題をさらに悪化させるのは、ウクライナが東部戦線で切実に必要とされる最精鋭の兵力を引き抜いたことだ。これは、重要な戦線ですでに均衡が崩れていた損失の割合をロシア側にさらに有利にさせている。クルスク侵攻がいかに愚かな考えであるかを考慮すれば、ロシアが(むしろ今回の侵攻に)衝撃を受けたのは驚くことでない」 すでに形勢が傾いたロシア・ウクライナ戦争で、クルスクの戦いが与える影響は甚大であることは明らかだ。 チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )