武内涼さん産経新聞連載『厳島』で第12回野村胡堂文学賞 極めて新鮮でヒューマンな物語
作家の武内涼さん(46)が、産経新聞に連載された『厳島』(新潮社)で優れた時代・歴史小説に贈られる第12回野村胡堂文学賞(日本作家クラブ主催)を射止めた。同賞の過去の受賞者には、今村翔吾さんや蝉谷めぐ実さんら実力派の名が並ぶ。武内さんは先月都内で行われた授賞式で「すばらしい賞をいただいて、強く背中を押された気がする」と喜びを語った。 『厳島』は戦国時代の三大奇襲戦の一つにも数えられる安芸(広島県)の厳島の戦いを題材にした歴史小説。圧倒的な兵力差を覆して勝利した毛利元就の冷徹な知略と、陶晴賢軍の家臣で、義と信頼を重んじて敗れた弘中隆兼の生涯を対比させて描く。令和4年に産経新聞で連載され、翌5年に単行本が刊行された。選考委員の郷原宏さんは選評で「周辺人物も含めて人物造形が丁寧でよく練られている。極めて新鮮でヒューマンな物語」と絶賛した。 武内さんはもともと映画監督が夢で、作家デビューする前、映画やテレビ番組制作にも携わっていた。 「撮影準備で一番好きだったのがロケ現場を探す仕事。その癖がついているのか、小説を書くときも必ず作品の舞台に事前に足を運び、取材し、たくさん写真を撮る」と受賞スピーチを切り出した武内さん。広島に飛び、『厳島』の舞台を取材した際に毛利軍が奇襲に使ったかもしれない「森の中の、かなり古い忘れられたような小道」を見つけた逸話を披露した。 武内さんはその上で「自分が好きだった映画やスタッフのときの経験が絡み合って作品になっている。自分が大切にしてきたことは堅守しながら、書いたことのない時代、新しいテーマにも挑戦していければ」と語った。(海老沢類)