「世界最強のパスポート」にビザを課す…日本と中国の関係の現在地
■ビザ問題は日中関係の現状を知るバロメーター 北京に近い大都市に、天津がある。日本の中国大使、金杉憲治大使は4月11日、その天津市を訪れ、トップである天津市共産党委員会書記の陳敏爾氏と会談した。天津は、トヨタ自動車など日本企業が多数進出している。金杉大使は会談で、短期滞在のビザ免除再開を要請した。実は、この天津市のトップは習近平主席の側近の一人。ビザの問題は、日中間の政治・外交とリンクしていると思う。だから、習近平主席に伝わるように、要請したのではないだろうか。 難問山積の日中関係だけに、やはりビザの問題は政治にリンクしている。岸田総理が国賓待遇で訪米して行われた先日の日米首脳会談の際にも、中国側は会談後に発表された共同声明を非難している。尖閣諸島や台湾問題、それに南シナ海の問題も含め、日米同盟強化に踏み切った内容を指し、「中国の内政に著しく干渉し、中国の利益を損なった」と抗議している。このようなテーマも、今後のビザの問題に影響してくるのではないだろうか。 もう一つ理由がある。冒頭、日本のパスポートが「世界最強のパスポート」と紹介した。その理由として、日本への信用度の高さと説明した。国のステータスを象徴しているとも言える。だから、中国のパスポートを持つことで、ノービザで入れる国を増やしたり、入国手続きを簡素化したりすることは、国家としてのステータスを高め、国民の誇りを駆り立てようとする習近平政権の目的とも一致する。 中国ではスパイ容疑で邦人が拘束されたままになっている。それも含め、さまざまな要因で、日本人の対中感情は芳しくない。ビジネスでも、観光でも、中国へ行こうという意欲が低下している中で、これ以上、人の往来が進まないと、関係改善は見込めない。 中国とて、経済は低迷した状態が続く。日本のビジネスマンには来て、投資してほしいが、そこには政治が絡む。中国も痛しかゆしだ。ただ、ビザ問題は、日中関係の現状を知るバロメーターの一つに思える。
■飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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