「魚が跳ねる!」自ら串で刺したヤマメの塩焼きほおばる高校生…「農泊」通じて「食料」を自分事に
農泊の宿泊者数はコロナ禍を除くと増加傾向で、2023年度は訪日客も含め延べ794万人泊に上った。政府が25年度までの目標としていた700万人泊を超えた。農泊に取り組む地域数は23年度末時点で、全国656地域に増えた。
「作物が商品ではなくなる」
都会の大人たちが、農山村で農と継続的に関わる動きも広がっている。
11月上旬、山あいにある長野県伊那市の畑で、農家の宇野俊輔さん(69)が世話人を務める「LURAの会」会員の女性4人が大豆を収穫していた。
東京都出身で三鷹市に住む会社経営、浦美樹子さん(54)は会員を約10年続けており、1、2か月に1度様子を見に来る。「自分が栽培に携わることで作物が商品ではなくなり、距離感が近くなった。自分の古里のようで親戚の家に来た感覚にもなる」と笑う。
同会は宇野さんが「食べる人と作る人が共に作物を育て、自分ごととして支え合う仕組みを構築したい」と11年に設立。会の名称は「農で繋ぐ、都市と田舎」を意味する英語の頭文字からとった。会員は大豆、コメ、野菜の中から宇野さんと一緒に育てる作物を選択。面積に応じて年会費を払い、収穫された作物を受け取る。
今年度の会員約50世帯のうち首都圏在住者が3分の1を占める。可能な範囲で土壌整備や種まき、田植え、除草作業、収穫などに参加し、作業後には食事をするなどして親睦を深める。生育状況はSNSで共有する。
宇野さんは「土と向き合い、農作物を通じて自然や大地に生かされていることを実感し、食料の自給について考える人が増えてほしい」と願う。
「消費するばかりではなく」
国土交通省が20年に実施した調査では、首都、名古屋、大阪の3大都市圏の18歳以上の居住者(約4700万人)のうち、関係人口として生活圏以外の特定の地域を訪問しているのは約18%だった。
東京女子大の矢ヶ崎紀子教授(観光政策)は「食べ物は命の基本であるのに、都会の人は率先して考えないと消費するばかりになる。自分の食べ物がどこから来て、どんな人が苦労して作ったかを知れば、食料について真剣に考えることにつながる」と指摘する。
そのうえで、「農泊はリピーター作りも課題。訪れた人が都会に戻った後にも、SNSなどを使った農山漁村からの情報提供が欠かせないし、自治体の観光担当部署や観光協会からの支援も必要だ」と話している。