「本当の地面師」の実態は普通のビジネスマン…ドラマよりエグい悪質不動産ブローカーの"最新手口"
■大企業が数億円規模でダマされてしまう理由 取引代金の全額を奪取する不動産詐欺に関して言えば、「大企業が数億円規模も騙されるはずがないのでは」と思うのではないでしょうか。 読者の皆さんは、自分が不動産会社で物件の仕入れ担当者になって、実績をつくらないといけない立場に置かれたと仮定してみてください。プレッシャーがかかる状況下で、不動産コンサルタントを名乗る地面師からうまみのある物件を紹介され、その後に「早く購入しないと競合が買い取ってしまう」「地主の要望で早急に売却したい」と急かされる。さらに地面師たちは弁護士や司法書士など、信頼を置ける当事者が関与していることもちらつかせてくる。そのような状況では、騙されるのも無理はないと感じるはずです。 もちろんこれらはすべて工作です。地面師たちは断続的に相手を揺さぶり、正常な判断ができなくなるよう追い込んでいくのです。 冷静に考えれば、数億円規模の取引をする際は、審査や本人確認などの手続きを入念に行うのが常識です。一方で、地面師たちは詭弁を弄して、取引当日まで物件の事前確認をさせず、地主とも一度しか面会させないように仕向ける。買主は地面師の手のひらの上で踊らされ、結果的に工作を見過ごしてしまうのが典型的な被害例です。 私のような司法書士からしても、取引当日に初めて本人確認の書類を確認せざるをえない状況に追い込まれたら、その場で偽物かどうか判断を下すのはかなり厳しいです。 書類自体の真贋を見極めるのが難しいのはもちろんのこと、書類が偽物であると誤認してしまったときのリスクが怖いのです。 数億円規模の取引が行われる際は、買主側と売主側の関係者が多数に上り、物々しい雰囲気になります。さらに我々のクライアントである買主からすれば、取引当日は大一番で、緊張が張り詰めています。その状況で、司法書士が書類確認の際に「詐欺の疑いがある」と進言したら、実際には詐欺ではなかったとしても、売主が機嫌を損ねて契約が流れてしまうでしょう。当然買主も激怒して、司法書士の信用が地に堕ちるわけです。 重圧を背負わされる場面だと、つい司法書士にも「多少書類に違和感があっても口に出せない」という心理が働き、地面師の術中にハマって手遅れになるわけです。規模が大きく、関与する人数が多いほど、プレッシャーがかかって正常な判断を下しづらくなるのも、地面師詐欺の厄介なポイントです。 そのため、手遅れにならないように早めに書類を確認することが重要ですが、地面師は逆に足止めしてきます。また、足早に手続きを進めると、買主側に嫌がられることもあります。こういったプロセスをいかに円滑に行うかが、司法書士のノウハウの一つです。