ジェイ・Zやファレルも惚れ込むR&Bの後継者、Maetaが語る音楽ルーツと初来日への想い
作品から紐解く交友関係とコラボワーク
―では、曲作りにおいて影響を受けた人は? メイタ:ジョン・メイヤーが大好き。自分の音楽にも取り入れたいって思っているのは彼の曲作りの才能。今まで聴いた中でダントツに素晴らしいソングライター! ―あなたはピアノを弾きますが、曲作りの際はピアノを使っているのでしょうか? メイタ:それがしないのよ。子供の頃に習ってからずっと弾いてきたのにね。家にはピアノがあって音源も保存できるし、ボタンひとつでそれを再生できるのに、その機能も活用してない。普段使うスタジオにピアノがないからというのもあるけど。でも、今から始めてもいいのかも。ただ、ピアノが弾けることや知識自体はスタジオでメロディを考えたりする時に役立っていると思う。 ―ロック・ネイションと契約する前からインディペンデントで作品を出していましたが、現在に繋がる音楽性が定まったのは、2021年にロック・ネイションから出したEP『Habits』からと考えていいですか? メイタ:『Habit』は大好きなプロジェクトだけど、あの当時から私も変わったし、自分の音楽もそれにつれて成長したという意味で、今振り返ると正直ちょっと恥ずかしく感じる。LAに移住してからすごく好きになった人がいて、当時の曲はすべて彼に関するものだった。彼に夢中だった当時の私は今よりずっとナイーブで、いろんな意味で人生経験も足りなかった。あのプロジェクトはその彼との関係、そして今でもわかったとは言えないけど、愛というものがよくわかっていなかった、恋に恋する少女が、それを理解しようとするさまがテーマだった。 ―では、EP『Habits』の後に出した『When I Hear Your Name』(2023年)はどんなテーマの作品なのでしょうか? メイタ:内容としては今話した彼のことなんだけど……長いこと付き合っていて、実は今でも大切な存在の彼とは問題続きの時期をともに過ごした後にしばらく別の道を行ったんだけど、結局ヨリを戻した。その時にふたりである島に旅行したの。全てから現実逃避するためにね。ふたりの関係はかなり複雑だったけど、旅の間はすべてがうまくいっているように思えた……。それで彼へのどうしようもない気持ちと島への逃避行をコンセプトにした。その人の名前を聞くだけで記憶が蘇ったり、ドキッとする人が誰にだっているでしょ? それでタイトルが『When I Hear Your Name』というわけ。 ―赤裸々に語っていただきましたが、その『When I Hear Your Name』は13曲入りでありながら厳密にはアルバムではなくEPだそうですね。フル・アルバムは別に作られると? メイタ:そう。ケイトラナダとのプロジェクト(『Endless Night』)もやったけど、それは夏向けで、デビュー・アルバムに関しては最近取り組み始めたところ。年内のリリース予定ではあるんだけど、私は完璧主義なところがあるから、それが現実的なのかはちょっとわからない。でも作業自体は開始しているから、みんなに早く聴いてもらいたい。 ―『When I Hear Your Name』のゲストや裏方には、ケイトラナダをはじめ、タイ・ダラー・サイン、デスティン・コンラッド、ザ・ドリーム、ラッキー・デイ、アンブレ、ルイ・ラスティック、シャーロット・デイ・ウィルソン、キャンパー、デミ・ロヴァート、イライジャ・ブレイクなど、あなたと同じく今のR&Bやその周辺のシーンを盛り上げている人たちの名前が並びますが、これほど豪華で多数のアーティストが集った作品も珍しい気がします。 メイタ:これはひとえにA&Rのオマー(・グラント)の手腕。私に良い曲を提供できるよう尽力してくれて、みんな(ゲストやプロデューサー)も私との共演を快諾してくれた。あと、私の性格もあるかもしれない。知らない人ばかりの環境でもすぐに友達を作れるタイプだから、自然に一緒にやろうよ!ってなる。ザ・ドリームやタイ・ダラー・サインみたいな、今まで自分がファンだった錚々たるメンバーが私を信じてサポートしてくれて、もう感謝の気持ちでいっぱい。本当に今でも実現したことが信じられない。中にはロック・ネイションとの契約前に録った曲もあるけどね。 ―「Anybody」の作者に名を連ねているSZA(Solana Rowe)とは直接会ったことがないそうですが。 メイタ:SZAが書いた「Anybody」は契約直後に曲(デモ)を聴いて当時すごく気に入ったんだけど、数年間寝かせていた。でも、ある時『When I Hear Your Name』にすごくフィットするかも……ってことでギリギリに追加された曲。状況はその都度違うけど、そうやって突然採用された曲もある。 ―「S(EX)」のライター・クレジットにはケラーニの名前もあります。トキシックなスロウ・ジャムと言いますか、「体だけの関係を取るか、人間としての魅力を取るか」というキワどい歌詞の曲ですが、これも未発表だったものをあなたが歌ったそうですね。 メイタ:そう。共通のヘア・スタイリストがいて、ある日ディナーに誘われた。そうしたらそこにケラー二も来ていて、それが初対面。食後にみんなでカラオケに行ったんだけど、当時の私は彼女を前にしてただのファン状態でドキドキしていたのを憶えている。「S(EX)」はもともとケラーニが自分で歌うために作ったんだけど、結果的には出さなかった曲で、それを私のA&Rが送ってきてくれた。聴いてみたら歌詞からサンプリングまで当時の私には共感できるところが多くて……彼女がこの曲を私にくれて本当に嬉しかった。 ―後半でフロエトリーの「Say Yes」(2002年)のフックを歌う部分がありますが、このアイディアは? メイタ:初めてこの曲を聴いた時にはすでにその部分は入っていたから、ケラーニのアイディアだと思う。最高のアイディアだけど、残念ながら考えたのは私ではないの。彼女とこの曲を手掛けたOGパーカー、それとデスティン・コンラッドにも敬意を表したい。 ―「See You Around」を手掛けたザ・ドリームとは制作中に喧嘩したというエピソードを読みました。 メイタ:あれも契約して間もない頃に曲を耳にして、数年間温めていた。ザ・ドリームがプロデュースをしたいって言ってくれたのでニューヨークまで会いに行った。それで数日間かけて一緒にこの曲を含めた数曲に取り掛かったんだけど、彼はボーカルに関してのこだわりが強くて、彼から歌い方を指示されたことが私は気に入らなくて揉めたというわけ。どう言えばいいかな……私は性格的にすぐに折れないっていうか、本気で怒ってるわけじゃないけど冗談半分で喧嘩腰になっちゃうというか。でも、最終的には彼が正しかった。彼が感性を重視しているのに、私はブレることなく完璧に歌うことに意識を集中させていたら、「聴く人に気持ちが伝わるように歌わないとダメだ。大事なのは完璧に歌うことじゃない」って言われた。その大切さを彼から学んだ。 ―アンブレとラッキー・デイはそれぞれソングライティングに参加し、ふたりとも別の曲でボーカリストとしても声を交えています。特にロック・ネイションのレーベルメイトでもあるアンブレとは以前からお互いの曲で共演し合っていますが、彼女のどのあたりに共感していますか? メイタ:アンブレとは同時期にロック・ネイションと契約した縁もあって仲良くなった。レーベルメイトというより大切な友達ね。最高にクールで、すごく面白い子。何を考えているのかわかりにくいところもあるから、最初にコラボした時は「うわー、絶対私嫌われてる」って思ったけど(笑)。ソングライターとしても素晴らしい才能の持ち主で、リリックの内容もクールで私のことをよくわかっているから、いかにも私が言いそうなリリックを書くのよね。 ―ラッキー・デイがソングライティングに関わったバラード「Through The Night」はキャンパーたちのプロデュースで、フリー・ナショナルズが演奏しています。これは今やあなたの代表曲と言っていいと思いますが、この曲が作られた背景を教えてください。 メイタ: キャンパーとラッキー・ディとはプロジェクトのために1日セッションを入れていたんだけど、いろいろアイディアが出て時間が足りなくなってきたから、もう1日追加しようってことになった。それで初日からのアイディアを2日目に仕上げるつもりだったんだけど、たしかキャンパーがこの曲のベースのフレーズを弾き出したの。そこにラッキー・ディがフリースタイルで加わった時に、「これだ! 他の曲はもういらない、これで行こう!」ということになった。完全に偶然の産物なんだけど、おかげで私にとって初めてのNo.1ソング(※Billboard「Adult R&B Airplay Chart」で1位を獲得)になった。今日もツアー・バスの中でテレビをつけたらこの曲が流れていて、本当にいい曲に恵まれたと感謝している。 ―クイーンの「Cool Cat」(82年)は、どういう経緯でカバーしたのでしょう? メイタ:A&Rのオマーと車に乗っていた時、彼が「ちょっとアイデアがある」と言ってこの曲をかけてくれて、聴いた途端にめちゃめちゃ気に入った。クイーンの曲の中でもあまり知られていないし、今までにやったことがない雰囲気だったから歌ってみたけど、すごく難しい曲で、途中で集中力が欠けてしまって、オマーにお尻を叩かれてなんとか歌い上げた。それでレコーディングした音源をプロデューサー・チームの1500・オア・ナッシングにリプロデュースしてもらったんだけど、私にとっての自信作のひとつになった。クイーンのカバーじゃなくて私のオリジナルだと思ってる人が多いみたいだけど。仕上がりには大満足している。 ―1500・オア・ナッシングといえば、その構成員でもあるジェイムス・フォントルロイを「Sexual Love」でフィーチャーしていますよね。 メイタ:もう数年一緒にやっているけど、彼は本当に素晴らしいシンガー/ソングライター。だから、彼がどこにいようと関係なく、仮に彼が日本に住んでいても一緒にやるためなら喜んで日本まで行く!