“へなちょこ”だった女子プロレスラーはいかにしてシングル王者に上り詰めたのか? 「不安だけどやらなきゃいけない」アイスリボン真白優希を突き動かす想いとは?
そんな真白に、さらなる重圧がのしかかる。選手たちが所属する株式会社アイスリボンの社長が音信不通になってしまったのだ。運営会社は別だから大会を開催することはできているが、選手としては当然、不安が募る状況だ(社長は入院中だという)。 そういう中でのタイトルマッチ。ベルトを巻きたい。しかしベルトを巻くことで背負うものはあまりにも重い。 「今日を迎えるのがみんな不安で。体を張ってるし、命かけてるし。私も凄く怖かったんですけど、自分が先頭に立って引っ張らなくちゃと。不安だけどやらなきゃいけない。“こんな状況じゃなければ”とも思いましたけど」 そこに“へなちょこ”が個性のレスラーはいなかった。体は小さい。パワーもない。けれど責任感が真白をつき動かす。不利な展開が続く中、少ないチャンスを必死でものにしようとする。 途中からは泣きながら、叫びながらの攻撃。終盤はダメージもあり技の精度が落ちた。蹴りがなかなかクリーンヒットしない。ならばと、当たるまで何度も何度も蹴る。 タイトルマッチにふさわしい試合内容だったとは言えない。ただ真白らしい試合ではあった。真白にしかできない試合で、彼女はチャンピオンになった。 会社の事情を観客にも明かしたのは、団体を引っ張る者としての誠意でもあるだろう。練習生時代のエキシビションでも今回のタイトルマッチでも泣いていた真白だが、結果いまベルトを巻いている。こんな選手になるなんて、本当に誰も思わなかった。 大会の直前、いぶきが無事に出産。真白はチャンピオンとして盟友たちの帰りを待つ。 取材・文●橋本宗洋