「かわいい」でインドネシアを席巻した「ウーリン」が失速気味! 日本車はもちろん同門BYDの勢いに対抗する術はあるのか
いち早くインドネシア市場に進出したウーリン
2024年7月に開催されたGIIAS(ガイキンド・インドネシア国際オートショー)2024の会場内、中国ウーリン(上海通用五菱汽車)ブースへ行くと、壁に「7周年」と大きく書かれていた。日本では「5」や「10」など、十進法で祝うような傾向もあると筆者は感じているので、どこか中途半端にも思えたので事情通に、「インドネシアでは7は何か意味のある数字なのか?」と聞くと、「そんなことはありません。ウーリンはいままでも『3周年』とか毎年のように『アニバーサリー』として祝っていますよ」と話してくれた。 【写真】街で見てもかなり目立つ! 売れるのも納得なウーリンの小型EV トヨタブースにはランドクルーザー300が展示されていたが、そのボディには「70周年記念(初代登場から)」と英語で書かれたバッジが貼ってあり、日本車の歴史の深みというものを改めて感じてしまった。個人的には「SINCE 1954」とされるよりはいいかとも感じた。 中国系ブランドとしてインドネシアにいち早く市場参入したのがウーリンブランド。インドネシア国内のスズキの生産工場の対面に現地生産工場を建設し、当初はICE(内燃機関)車となるMPV(多目的車)などの販売から開始した。その後もICEのコンパクトクロスオーバーSUVなど、ラインアップを拡充していった。ちなみに2024年2月にインドネシアの首都ジャカルタを訪れた際、空港のタクシー乗り場にかなり年季の入ったウーリンのMPV「コンフェロ」のタクシーがいたので試しに乗ることにした。走行距離は40万kmを超えていた。車内の見えるところはくたびれているものの、意外なほど結構まともに走っていたので驚いてしまった。 ウーリンは、2022年にマイクロコンパクトBEVとなる「エアEV」をインドネシアで世界初公開し発売するとインドネシアで爆発的なヒットとなった。以後、多くの中国系メーカーが後に続くようにBEVをラインアップしていった。ICEを含め、インドネシアにおける中国系メーカーの先兵的存在がウーリンなのである。 しかし2024年になると、エアEVの販売台数の失速が目立ってきた。欲しいと思う人への販売が一巡してしまったのがその原因ともいわれている。さらに、世界的にもBEVの最大手とも呼べるBYDオート(比亜迪汽車)がインドネシア市場へ正式参入したことも大きかったようだ。もともと「カワイイ」ということで女性ウケのよかったエアEVだが、日本ほど「カワイイ文化」が育ちきっていないことも早期に販売が失速した原因のひとつともいわれている。 「7周年」を迎えたウーリンも、軸足をエアEVから他車に移す動きを見せている。いまでは日本のコンパクトカーサイズに近く、引き続きカワイイ路線を継承する「ビンゴEV」が販売主軸車種になっているとのこと。ただし、このカテゴリーにはBYDドルフィンがいるので、各地域で強固な販売ネットワーク構築でも定評のあるBYDとの競合がどう影響していくかも見ものといえよう。 ウーリンの属する上海汽車グループは、すでにタイでは大幅値引きなどの乱売が目立っているとも聞く。一方のBYDは、そこに対しては距離を置きながら対応しているようであある。インドネシアでは今回のGIIASでドルフィンとアット3にお買い得価格の仕様を追加設定しており、タイのように値引きに頼るようなEVの乱売を抑止しようという動きをとっているようにも見える。 おそらく2025年開催のインドネシアの自動車ショーでは「8周年」を祝うことになるだろうと思われるウーリン。9割超という圧倒的な販売シェアを誇る日本車に加え、新規参入が増え続ける、同門ともいえる中国系メーカーも意識しながら、今後どう展開していくかということを注視していきたい。
小林敦志