「1.4億の借金で一度は死んだ」100人いた社員を3人に削減した不動産会社社長が"準グランプリ"に輝いたワケ
■「大きな失敗した人間と組みたい」 絶望の日々。しかし、そこへ“救世主”が現れる。 ある日、地元の経営者が緑葉社で抱えていた買い手のつかない100万円相当の在庫物件を500万円で買い取ってくれた。他にも複数の経営者が同じように手を差し伸べてくれた。ある経営者は言ったそうだ。 「ロマンばっかり見てる君みたいなやつがおらんとな、世の中変われへんねん。俺はな、失敗したやつと組みたい。1回暴走して死にかけたやつやから信頼できるんや。俺は、この先君とやりたいことがある。だからなんとか生きとけよ」 2024年8月、長年抱えていた物件の債務整理に目処がついた。“地獄”を救ってくれた経営者たちの恩義を胸に、第2フェーズのスタートラインに立つことができたのだ。 現在、自分の「失敗」をすべてオープンにしたうえで、地元を盛り上げてくれる人たちと、コラボしている。例えば、地元のバス会社や外部事業者と組んで前出の「ゐの劇場」や空き家を観光拠点として整備し、姫路市とたつの市を結ぶプロジェクトを進めている。 緑葉社を承継して約10年間。龍野地区だけで町家80棟を買い取って改修し、40店舗を誘致した。緑葉社の管理物件は100を超えている。そうした活動を評価して、「おもしろそうだから出資しておきたい」という人も最近増えている。 ■たつの城下町の暮らしを、100年後も引き継いでいくために 不動産開発には「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という、まちづくりの考え方がある。この理念に沿うように、畑本さんは町を「面」と捉えて進めてきた。 「1棟1棟を個別にデザインするのは、まちづくりに繋がりません。観光のための乱開発もまた、昔から育まれてきた暮らしを奪ってしまいます。まず世帯ごとの暮らしに主眼を置き、暮らしやすいまちにしながら、観光と共存させていきたいです」 「こんにちは」と挨拶をし、家の前や店の軒先をきれいに掃除する。かつて武士が住んでいた城下町の作法が息づいているからこそ、まちの調和が維持できている。「建物や文化を未来へ引き継いでいくことが、本当の意味でのまちづくりだと思うんです」と力をこめて話す。 並々ならぬ熱意で取り組んできた畑本さんの重伝建のまちづくりは、地域経済ビジネスコンテスト「POTLUCK AWARD(ポットラックアワード) 2024」(三井不動産、NewsPicks共同主催)で、今秋、142社の中から準グランプリに選ばれた。 歴史的建造物つまりハード面を、補助金に頼らず市民出資でまちづくりを進めてきた実績が評価されたという。 周りからはまちづくりのノウハウをフランチャイズ化して広めることをすすめられるが、本人は首を振る。たつの城下町に心を奪われて、一度は死にかけながらも精力的に活動を続ける畑本さんはこう言う。 「まちづくりでいちばん大切なのは、地元を知り、土地に根差して活動する人が覚悟を持つこと。腹を括った人がいる地域ならどこでもアドバイスにいきたいですね。僕の拠点はあくまで、たつのですが、助言に行くたびに馴染みの店ができて『おばちゃんただいま!』『おっちゃんひさしぶりやなあ』と言えるようなまちが全国にできたら、最高っすね」 ---------- 野内 菜々(のうち・なな) フリーランスライター 1979年生まれ。ジャンルレスで地域のヒト・モノ・コトの魅力を伝えるフリーライターとして活動中。兵庫県在住。 ----------
フリーランスライター 野内 菜々