宮沢氷魚が村上春樹作品で感じたこと「無意識で人を傷つける瞬間はある。それでも自分らしく」
朗読は自分の演技を成長させるきっかけになった
── デビューして今年で8年目ということですが、TV、映画に、声優、そしてこのAudibleなどさまざまな活動をされるなか、この8年間で俳優業について考え方が変化したことはありますか? 宮沢 実は今回のAudibleの仕事が、考えていた以上に自分を成長させたと感じているんです。Audibleと同時に他の映像作品のお仕事もしていましたが、台本を読んでいて言葉の届け方とか、この言葉をどういう気持ちで伝えようかみたいなことをすごく考えるようになったんですよね。 ── 映画やTVでの演技自体にも影響があったと? 宮沢 やっぱり今までは動きなど勢いに頼っていた部分も、ちょっとあったんです。もちろん、ときにはそれも必要なのですが、そこにさらに言葉の重みを考えるようになりました。その意味を理解したうえで発する言葉と、ただ書いてあるものを読むだけの言葉って、やっぱり全然届き方が違うと思うんです。 Audibleは毎週録音があったのですが、読む時はいつも自分の声をヘッドフォンで聴きながら読むんです。喋りながら自分がどういう声の質をしているのかとか、少し気持ちを乗せるとどういうふうに聞こえるのかなど、ある意味自分を研究する時間にもなっていたんです。 今までなら自分では十分だと思っていた感情のレベルも、これじゃ足りないと気づいて映像の仕事ではもうちょっと出してみようと思ったり、逆に出しすぎているから少し抑えなきゃと気づいたり。自分の中の演技のバロメーターというか、どこでギアを入れどこでギアを下げるべきか、俯瞰して自分を見ることができるようになったと感じています。
失敗や恥ずかしい思いも経験することで、余裕ある大人になりたい
── まだ30代になったばかりの宮沢さんですが、どんな大人になりたいのか、ご自身が考えるカッコいい大人とはどんな人でしょう? 宮沢 やっぱり“余裕のある人”だと思います。昔は余裕のある人って、生まれつき自分に絶対的自信を持っている人なのかなと思っていたんです。でも心の余裕って、いいことも悪いことも、いろいろ経験をしているからなんじゃないかと。 すごくカッコ悪い瞬間も、気持ちがドンと落ちていた瞬間もある。そんないろんな自分を経て、多分どんな状況でもこうすれば何とかなるよという、自分が失敗から学んだ正解というか成功例を知っているからこその余裕なんじゃないかと思うんですよね。 僕はまだ……いやもう30歳なのかもしれないけど(笑)、今はとにかくいろいろ経験を積むべき時期だと思っています。たくさん失敗して、たくさん恥ずかしい思いをして。でもその経験によって10年後なのか20年後なのか、少しでも自分に自信を持った余裕のある人になりたいなと思います。