宮沢氷魚が村上春樹作品で感じたこと「無意識で人を傷つける瞬間はある。それでも自分らしく」
── Audibleではこれまでもたくさんの俳優の方々が朗読されていますが、参考にされたりしたのでしょうか? 宮沢 もう本当に錚々たる方々が、やっていらっしゃいますよね。僕も事前にいろんな作品を聞きましたが、皆さんそれぞれ個性がありますし、言葉から、もう真実性が伝わってくるような重みもあって。でもだからと言って、僕が負けじとうまくやろうとすると絶対空回りすると思って(笑)。だから無理に背伸びをせず、今の自分の等身大の状態で一番いいパフォーマンスをしようと思いました。
「無意識で人を傷つける瞬間はある」という主人公の言葉に共感した
── 等身大という意味では、朗読された『国境の南、太陽の西』の主人公・始(はじめ)も宮沢さんの年に近い30代の男性ですよね。作品としてはどういった感想を持ちましたか? 宮沢 僕自身もこの作品を撮り始める直前に30になったので、自分の今いる人生の立ち位置と登場人物である始の立ち位置のわかり合えるところを見つけながら、その繋がりを信じて読んでいました。 お話としてはなかなか過激なところもあって、共感しがたいところもありました(笑)。でも自分もそうですが、30年生きてきて誰も傷つけずにきたかと言ったらそんなことなくて。始が作品の中で言う「無意識で人を傷つける瞬間はある」ということは、本当にその通りだなと思います。 彼はそういうことから逃げずに、傷つけてしまうとわかっているけども、僕はこういう人間なんだと嘘をつかずに自分の気持ちをそのまま出して、人間の弱さや醜さの中にある幸せや喜びを表現する。もちろん、それはどうなの? と思うこともありますが(笑)。でも、自分の気持ちのままにというところは少しいいなというか、自分ももっと素直になれたらと思うきっかけを与えてくれる作品でした。
── 確かに時代設定も昭和ですし、小説が発表されたのも30年以上前。その時代のラブストーリーという意味で、変わらず共感する部分あるいは時代を感じる部分などはあったのでしょうか? 宮沢 確かに僕が生まれる前の作品でその時代は知らないですけど、恋愛という意味ではあんまり変わらない気がするんです。日本文学の過去をさかのぼっても、やっぱりリスクがあるからこそ飛び込んでみたいとか、やってはいけないことに快感を覚えてしまうとか。いつの時代もそういう片鱗ってずっとあるので、テーマは変わらないと感じています。