〈幸せっぽさ〉はもうたくさん? 女四人で〈最強〉のルームシェア(レビュー)
〈もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!〉という言葉で、小林早代子の『たぶん私たち一生最強』は始まる。友達と似たような話をしたことがある女性は多いのではないだろうか。その場ではいいねと盛り上がっても、真剣に考えて実現するのは難しい。社会は男女が結婚して子供を育てることを前提に設計されているからだ。でも、女友達と暮らした方が絶対に楽しいとわかっているなら、諦めることはないのかもしれない。本書はそんな希望を提示する物語になっている。 少女漫画家の花乃子、大手JTC勤務の澪、広告代理店勤務の百合子、OA機器販売会社勤務の亜希は、高校の同級生。二十六歳のとき、花乃子が長年つきあっていた男と別れたことをきっかけに、四人で一緒に住もうと計画する。しばらくは何も動きはなかったが、ある日再会した花乃子の元恋人に婚期を逃すとか考え直した方がいいとか言われて、ルームシェアを本気で実行に移す。 読みどころの一つは、テンポのよい会話だろう。〈俺が、本当に花乃ちゃんのこと幸せにできればよかったのにね〉と自分に酔っている花乃子の元恋人に、澪と亜希と百合子がビシッと言い返すくだりは爽快だ。その後、なぜか元恋人とゲームで対決することになる流れもいい。世間が押し付けてくる〈幸せっぽさ〉に、惹かれながらも違和感をおぼえ、気の合う友達と本当の家族になりたいと願う。ふざけているようで切実な四人の思いが伝わってくる。 女四人の快適で愉快なルームシェアが始まってからそれぞれのなかで起こる変化も興味深い。百合子の視点でセックスの問題について踏み込んで描いたところは特に新鮮だった。百合子は四人の生活にエロが足りないと気づく。今の暮らしを最強にするために四人は性を探究する。 生きるためにほしいものは何であれ躊躇わず足していく。ポジティブなエネルギーに満ちている。 [レビュアー]石井千湖(書評家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社