〈奥能登豪雨〉父「早く抱きしめたい」 中3女子、家ごと流され 輪島・久手川
●電話で「逃げる場所ない」 「どうか生きていて」。能登半島を襲った豪雨で4人が安否不明となった輪島市久手川(ふてがわ)町では22日、消防による捜索活動が行われ、家族が祈るように見守った。塚田川が氾濫し、家ごと押し流されたとみられる輪島中3年の喜三翼音(きそはのん)さん(14)の父鷹也(たかや)さん(42)は「早く会いたい。抱きしめたい」と声を絞り出した。 【写真】喜三翼音さん=今年5月、石川県内(家族提供) 21日は普段通りの朝だった。長男の翔杏(しあん)さん(13)がサッカーの練習試合で外出し、鷹也さんは午前7時半に勤務先の製材所へ。妻の紗菜(さな)さん(25)と次女の桜音(みおん)ちゃん(1)は保育所の行事に出掛け、塚田川沿いの家に残ったのは2階の自室で寝ていた翼音さんだけだった。 雨脚が強まる中、鷹也さんは職場で「久手川が大変なことになっとる」と聞かされ、午前9時43分ごろに翼音さんのスマホに連絡した。ビデオ通話で翼音さんは、窓の下に押し寄せる濁流の映像を見せながら「海みたいになっとる」と声を震わせた。 翼音さんは「ドアが開かん」「逃げる場所がない」と訴えたが、「そこにおれ」と応じるのが精いっぱいだった。鷹也さんは職場を出て家に向かったものの、至る所で冠水が発生し、車が前に進まない。午後1時半ごろ、徒歩で何とかたどりつくと、自宅は基礎部分を残して流されていた。 ●着信直後つながらず 鷹也さんによると、午前9時59分、翼音さんから着信があったが、通話中で電話に出ることができなかった。7分後に折り返してもつながらなかったといい、「その時点で家が流されとったんやと思う。電話に出られず後悔しかない」と悔やんだ。 22日、自宅のあった場所から数百メートル下流で、地元の消防団員らが捜索活動を行った。鷹也さんも団員の1人だが、ヘルメットが流されてしまい、見守ることしかできなかった。 蒔絵師(まきえし)の祖父から影響を受けたのか、翼音さんは幼い頃から絵を描くのが好きで、輪島中では美術部の部長になった。「優しくて頭の良い子と自信を持って言える。とにかく見つかってほしい」と話した。 ●下流に家屋残骸 塚田川の下流では22日、上流から流されたとみられる家屋の残骸が見つかった。中に人が取り残されている可能性があるため、滋賀県から派遣された消防部隊がチェーンソーなどを使って内部を捜索した。