「略奪バトル・集団攻撃」なんでもあり!? イワシの大群に突っ込む海鳥たちのレアでカオスな状況に遭遇した【三浦半島】
天候が不順な今年の秋。神奈川県の三浦半島は、この日もどんよりとした曇り空でしたが、海を見てみるとたくさんの海鳥が飛んでいました。海(水)を薙ぐように飛ぶことから名づけられたミズナギドリの一種「オオミズナギドリ」です。小さな釣り舟は出船を取りやめたほどの強風の中、荒れた海の上を楽しむかのように滑るように飛んでいました。飛びながらエサとなる小魚を探しているのです。 ◆【画像】迫力満点! イワシの大群に集団で襲いかかる海鳥の群れ(すべての写真を見る) しかし、このあと、大変な“事件”が起きようとは、全く予想もしていませんでした。
■オオミズナギドリとは
オオミズナギドリは、羽を広げると120cmもの長さになる大型の海鳥です。日本には夏鳥として飛来し、離島で繁殖をしています。そして、冬になるとフィリピンやオーストラリア北部にまで渡っていくことがわかっています。 1日に1,000kmもの長距離を移動できる飛翔力の持ち主であり、通常は、外洋の大海原を自由に飛び回っています。双眼鏡でのぞくと遠い沖合を飛んでいる姿を見ることができますが、海が荒れると岸近くまで寄ってくることがあります。この日も北から寒気が流れ込み、風が強い天候でした。
■サヨリをめぐる大バトル
オオミズナギドリは、イワシなどの魚が大好物です。上空から魚を見つけると豪快に頭から水に突っ込んだり、嘴ですくい上げたりして捕まえます。 何度も水面すれすれを飛びながら魚を捕らえようとしていたオオミズナギドリが、ついに細長いサヨリをゲットしました! 大きな獲物をくわえ、力強く水面を蹴って飛び上がろうとした時です。上空から3羽のオオミズナギドリがその餌を奪おうと飛び込んできました。中には、勢い余って体全体が水没しているものもいます。まるで激しくボールを奪い合うラグビーの試合のようです。結局、最初に餌を獲ったオオミズナギドリがその魚を胃袋に収められたのかどうかもわからないほどの出来事でした。
■イワシの群れに総攻撃で大混乱! もうなにがなんだか……
しばらく観察していると、1羽のオオミズナギドリが入江深くまで入り込んできました。いつもは遠い沖合を飛んでいるので、こんな岸近くまでやって来るのはレアなことです。 と、突然水面が激しく揺れ、小さい魚が飛び跳ね出しました。おそらくイワシでしょう。オオミズナギドリがものすごい形相で捕まえにかかりました。見事な早ワザでゲットです。イワシの群れは、もう大パニック。付近の海面からたくさんのイワシが跳ねる事態となりました。が、それが、大変な事態を引き起こすとはイワシ自身も思っていなかったことでしょう。イワシの大群がいるとわかった途端、付近を飛んでいたオオミズナギドリが一気にその場に集まってきました。イワシたちが水面で激しく慌てふためいていることが、銃撃されたかのようにしぶきを上げる水面から伝わってきます。 もしかしたら、イワシは、他の魚に追われて飛び出したのかもしれません。だとするならば、上からも下からも攻撃を受けるさらに大変な状況に追い込まれていたことになります。 普段は沖合にいるオオミズナギドリが、岸からわずか数十メートルほどの距離の入り江に大集結してきたのです。一瞬にしてカオスな状態に陥りました。野鳥を見始めて50年近くなる筆者ですが、このような場面に出くわすのはもちろん初めてで、心臓がバクバク! 砂浜で水遊びをしていた子どもたちも大きな歓声を上げて見入っています。 イワシの大群を狙って、オオミズナギドリが空中から次々と突っ込んできました。どこかの外国の動物番組を見るかのようです。いきなりの集団一斉攻撃を受けてイワシも慌てているでしょうが、オオミズナギドリもみな殺気立っています。本当にイワシを見ながら飛び込んでいるのか、「もうこうなったら当てずっぽうで飛び込んじゃえ!」状態なのかもわかりません。この騒ぎに巻き込まれたのか、サヨリが飛び跳ねるシーンもありました。 しかし、この狂騒もわずか3分間ほどでお開き。オオミズナギドリは少しずつ落ち着きを取り戻し、沖合へと帰っていくのでした。 オオミズナギドリは、間もなく南国へと旅立っていきます。ただただ広い海原を飛びながら、誰もいない海の上でも、この日のような大集結を繰り返しながら越冬地へと向かっていくのでしょう。彼らの長旅の安全を願いつつ、来春、再び子育てのためにこの日本に戻ってくることを楽しみにしています。 相田 俊(あいだ しゅん) ナチュラリスト 身近な自然に目を向けるのが好き。冬はテレマークスキー、夏は自転車も。バードウォッチング歴は45年を超える。
相田 俊