社歴を重ねた実務家社長が戦略で暴走する理由 「既存事業のテコ入れ策」ばかり見えすぎる罠
社歴を重ね、自社の製品、顧客、組織に詳しい社長は、部下に安心感を与えるかもしれない。しかし、そうした社長の戦略が暴走する事例は後を絶たない。 30年に及ぶ研究を通じて、社業に精通した実務家たちが経営戦略をしくじる様を見続けた神戸大学の三品教授は、「戦略に必要なのは、構図、意図、潮目など、目に見えないものを視る力」だと指摘する。 それが意味するところとは何か。実務家のために書かれた教科書『実戦のための経営戦略論』から紹介しよう。 【ランキング】平均年収「全国トップ500社」
■社歴を重ねるだけではなぜ足りないのか 百戦錬磨の実務家に本当に教科書などいるのかと疑う方もいるかもしれません。 しかし、私が2000年代に送り出した本を見ていただくとわかるように、社員の働きを稼ぎに換えることに失敗してきたのは、社業に精通した実務家たちです。 彼らは強欲でもなければ、不実でもないのに、経営戦略をしくじりました。 なぜ、社歴を重ねるだけでは足りないのでしょうか。経験を積めば確かに製品、顧客、組織に詳しくなりますが、戦略に必要なのは、構図、意図、潮目など、目に見えないものを視る力です。
数十年の経験を狭い社業で積み上げても、こうした力はなかなか身につきません。 メディアのキャンペーンに対する免疫も同様です。 かつてのFA(ファクトリー・オートメーション)や直近のDX(デジタル・トランスフォーメーション)など、「やったほうがよい」案件に資源を配分する傍らで、「やらなければならない」案件がなおざりになると、戦略は空を切ります。 実際に空を切る戦略が少なくないのは、免疫不全のなせる業にほかなりません。
■経営戦略は未来に立ち向かうもの 過去バイアスも気になります。 経営戦略は未来に向かって打つものなのに、社歴の長い経営者は過去に立ち返ってしまうのです。 社業に精通すればするほど、既存事業のテコ入れ策が見えてしまい、前任者たちが犯した間違いを修正するほうが、早く株主に喜んでもらえると考えるのでしょうか。 だとすれば、未来に立ち向かう経営をしていないと指摘されても、反論できません。 分業体制に組み込まれて仕事をする人たちには、経営や戦略の経験学習を積む機会がほとんどないので、座学を積まない限り無免許で経営することになってしまいます。