“生粋の技術職”に突然「総務課」への異動命令…「これってあり?」 職人の訴えに最高裁が出した“画期的な判決”
裁判所の判断
結論から述べると、1審の地裁、2審の高裁は「配転命令はOK」と判断したものの、最高裁でドンデン返しが起き、裁判はXさんの勝訴で幕を閉じた。まずは最高裁の判断から解説する。 ■ 職種限定の合意はあった? 書面での合意がなかったため、会社側は「職種限定の合意はなかった」と主張した。しかし最高裁は「黙示の合意があった」と認定。地裁と高裁も、この点は最高裁と同様に判断している。理由はおおむね以下のとおりだ。 ・会社は、Xさんが技術系の資格を数多く持っており、溶接ができることを見込んで採用した ・技術職として18年間、勤務し続けていた ・Xさんは、溶接ができる唯一の技術職であった...etc ■ 合意があれば配転命令ダメ ただし、地裁と高裁は「職種限定の合意はあったんだけど…今回の配転命令はOK」と結論付けた。これを、最高裁はドンデン返しして「職種限定の合意がある場合は、会社は従業員に対して配転命令を出せない」と判断し、Xさんの勝訴となった。 ■ 地裁・高裁はなぜ「配転命令はOK」とした? 時計の針を巻き戻して、地裁・高裁の判断を見ていこう。会社は「仮に職種限定の合意ありと認定されたとしても、配置転換させる強い必要性がある場合は配転命令を出せる」旨の反論をした。 ■ え、合意を破っていいの? これについて、地裁・高裁は「配転の必要性があり、Xさんの不利益も甘受すべきレベルを超えていない。配転命令に不当な動機や目的がないから、職種限定の合意があっても配転命令はOK」という旨の判断をした。すなわち、一定の条件があれば合意を破ってもいいということである。 両裁判所とも、Xさんを技術職から総務課へ配転する必要性としては、以下の事実を認定している。 ・福祉用具を改造する需要が激減し、配転命令の頃には、会社は福祉用具の製作をやめる決定をしていた ・会社が「年間数件程度の需要のために月収約35万円のXさんを専属として配置することに経営上の合理性はない」と判断するのもやむを得ない ・総務担当が急きょ、退職したので、後任を補填(ほてん)する必要があった これらを踏まえて、地裁・高裁は「今回の配転命令は権利の濫用といえずOK」と結論付けた。 ■ 合意を破っちゃダメ! すでに述べたように、最高裁はその後、これをドンデン返しして「職種限定の合意があるのだから、配転命令は出せない」と判断したのである。 ■ 解雇を回避するため? 地裁・高裁は、「職種限定の合意があったとしても、Xさんの解雇を回避するためには合意で限定された範囲を超えた他職種への配転を命じることができる」との考えに基づいた判断を行ったと考えられる。 なぜなら、既存の部署を廃止することなどを理由に整理解雇が行われる場合、使用者は解雇を回避する義務があるからである。たしかに、過去にも(結論は配転命令が違法となったが)このような考えと親和的な判断を示した判例がある(東京地裁 H19.3.26/詳細は関連記事〈会社が現職“廃止”社員への「別職種」“配転”命令が違法となったワケ 裁判所はどう判断した?〉)。