「人を2分間楽しませるのは大変なこと」江戸の奇術「手妻」とVRの共通点
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「言われたことをそのままやるのは職人の仕事ではない」 ── 伝統工芸の匠の言葉ではない。時代の最先端というイメージが強いVRコンテンツの制作会社「ハシラス」 の安藤晃弘社長(38)の口から出た台詞だ。安藤社長はこれまで、江戸伝統の奇術「手妻(てづま)」とVR制作の両方に関わってきた。今年からVRを含むコンテンツ制作に絞って活動を展開しており、VR制作の難しさや仕事の流儀について、安藤社長が語った。
経験こそが力。一番のアドバンテージは、より多くの失敗にある
VRコンテンツを作る上で注意しなければならないのは、「これすごいね、面白そうだね」と思えるアイデアと、実際に面白いVRコンテンツとは必ずしもイコールではない、という点です。 例えば、「後ろから大きな生き物がズシン、ズシン、と迫ってくる。その度にビリビリと振動が伝わり、大迫力を感じる。その生き物から最終的にはうまく逃げ切る」という企画を考えたとしましょう。 実はこの企画、0点です。 VRには周囲が別世界になるという印象がありますが、実はゴーグルの視野角は110度までしかなく、真左や真右、やや左斜め前や右斜め前も見えません。後ろから追いかけられる、という体験は一見面白そうに思えますが、VRコンテンツ体験者が追ってくる生き物を認知するためには、思いっきり体をひねって後ろを向かなければならないのです。
このほか、PCで映像をチェックした段階では良いと思えたのに、実際にゴーグルをかぶってプレイすると気分が悪くなって酔ってしまったということもあります。 経験こそが力です。われわれの一番のアドバンテージは、より多くの失敗をしていることにあります。もう、本当にありとあらゆる失敗をしています。だからこそ、VRコンテンツを発注するクライアントからの要望に対して、『こういう経緯でうまくいきませんでしたので、お勧めできません』と言えるのです。 他のコンテンツにはないVRならでは特徴への理解が深くなければ、クライアントの要望と、完成したコンテンツの質を両立できません。