マジトラのゆくえ【キリスト教で読み解く次期トランプ政権】後編
「トランプ、ヴァンス陣営」として選挙戦を勝ち抜き、米国史上3番目に若い副大統領となるJ・D・ヴァンス。麻薬中毒の母親、貧困と労働者階級の出自、弁護士としての成功、大富豪ピーター・ティールとの繋がりなど派手な経歴が取り立たされる一方、カトリックの世界観に共感し、信仰を選び取ったということは意外と知られていない。キリスト教という視点から大統領選挙を考察した前回に続き、本稿ではトランプ2.0の行方を担う次期副大統領・ヴァンスについて掘り下げる。
最も頭脳明晰な次期副大統領
ヴァンスはここ数年、新右翼(The New Right)、あるいは「国民保守主義(National Conventionalism)」と呼ばれる共和党内の新たな動きの中で、最も頭脳明晰な論者として位置付けられている。 この運動の代表的論者の一人で共同体主義を唱える政治学者のパトリック・デニーンもカトリックだが、彼らはレーガンに代表されるような共和党の自由市場原理主義やタカ派的な外交政策を否定し、市場への介入や国内産業の保護を辞さない「大きな政府」、そして外国への介入を忌避する孤立主義を信奉している。 またヴァンスは人工知能からエネルギーまで、様々な開発への規制をなくすべきだと主張すると同時に、ビッグテック企業の寡占には極めて批判的でもある。 彼の従来の共和党らしくない姿勢が、副大統領としてどの程度維持できるのかは未知数であるが、少なくとも上院議員時代のヴァンスは、政策によっては民主党とも共闘してきた。 テックの寡占を批判しつつも、ティールに私淑し、イーロン・マスクの巨額の支援を副大統領候補として受け入れたヴァンスは矛盾している、という指摘は当然ある。また先に記したような、道徳性を重視するヴァンスの姿勢は、彼のソーシャルメディア上での煽情的でしばしば陰謀論的な投稿と明らかに食い違っているという批判もある。
「移民が犬や猫を食べている」発言の裏側
最も深刻な事例としては、トランプがハリスとの討論会で、オハイオ州のハイチからの不法移民が「犬や猫を食べている」というデマを主張した際に、ヴァンスがそれを擁護したことがあった。 しかもその後のCNNのインタビューで、このデマが自分の作った物語だったことを認め「アメリカの人々の苦しみにメディアの目を向けさせるためには、ストーリーを作らなくてはならないこともある」と悪びれず語り、視聴者を仰天させた。 しかし、彼がこのような一見ペテン師のような態度を取る理由もまた、カトリック信仰とは矛盾していない。 根本的なレベルでは、公的生活とはある意味で人気投票のようなものです。できるだけ多くの人から好かれるように行動しようとすると、カトリック教会の教えに沿った行動をとることは難しくなります。私はキリスト教徒であり、保守派であり、共和党員でもあるので、その意味について明確な見解を持っています。しかし、謙虚であるべきであり、政治とは本質的に一時的なゲームであることを理解しなければなりません。 多くの人が、自称キリスト教徒の大半がトランプ氏にどう接してきたかを非常に批判的に見ています。私にとって、ほとんどのクリスチャンが直面する根本的な問題は、この二つの政党〔民主党と共和党〕のうちどちらが信仰を最も傷つけないかということです。(中略)彼らは、他に良い選択肢がないからそうしているのです 。(J.D.Vance Becomes Catholic, Rod Dreherによるインタビュー、The American Conservative) ヴァンスは、政治は「一時的なゲーム」であり、信仰とは絶対に相入れない部分を持ち続けることを自覚している。