日本シリーズ「フジテレビの取材パス没収」は妥当だったのか?“ワールドシリーズ放映問題”とは分けて考えるべき…NPBに問う“報道の自由”とは
取材証の剥奪は妥当だったのか?
そういう意味では日本シリーズの地上波中継に対して、球界全体の事情に無配慮で身勝手、センスのない判断だったと言わざるを得ないものだった。 それではそのフジテレビの身勝手な番組編成に対して、取材証の没収、剥奪という処分が妥当だったのかというと、それはやはりやり過ぎ、行き過ぎだったと思う。 今回の取材証剥奪について井原事務局長は「信頼関係が著しく毀損されたという認識です。編成権はそれぞれ各局の経営判断。その経営判断がこれまで協力関係を構築していたと認識していたものを、毀損されたという判断です。急な話だったので事務局判断」だったと説明している。 ただ中継とニュース取材は、同じテレビ局でも原則的には違う立場、役割を担っている。中継はコンテンツ制作であり、テレビ局はNPBから放映権を買って、中継を行う。一方でニュース取材はNPB関連のさまざまな事象を取材して、報道する。その取材、報道にはもちろん日本シリーズの試合結果や選手の動向も含まれるが、事件、事故などが起これば、それも報道するし、時にはNPBや12球団にとって不都合な事実を報じなければならない役割を担うこともある。 一番危うく思うのは、プロ野球は社会の文化的公共財であり、その取材をする権利についてNPBが今回のように恣意的に取材証の没収、出入り禁止処分などを発する可能性があることだ。これを許すことは、メディアの正確なプロ野球報道の妨げとなる危険性にも繋がりかねない。
取材証の没収をめぐる筆者の体験
実は筆者も以前にサンケイスポーツから出してもらっているNPBの取材証を剥奪されそうになったことがあった。 その時はポストシーズンの巨人の取材で、連載を持つ週刊文春に書いた原稿が、サンケイスポーツの取材証で取材した内容でルール違反だというクレームだった。慣例的に筆者のようなフリーランスの記者の取材は一連のものであり、サンケイスポーツの取材証で球場等には入っているが、そこで独自取材したものは他の媒体でも書くことはある。 その時に井原事務局長とも話し合ったが、井原事務局長は「NPBは運動記者クラブ加盟者との信頼関係で取材証を発行しており、他媒体で書くことはその信頼関係を損なうものだ」ということだった。それでは評論家がテレビ局での取材証で球場に入って、スポーツ紙で評論しているが、それも同じではないのかという疑問に、井原事務局長は「そういう事実は確認しておりません」と返答。それでは筆者の取材証を没収するのであれば、平等に他媒体の取材証で取材をしている人がいないのかも調べるべきだ、という指摘にも「調べるつもりはありません」と全く回答にならない回答が返ってきて呆れさせられた。 しかもお粗末なことに、この時の取材は正規に文藝春秋で取材証をとって取材していたので、最終的には取材証の没収には至っていない。後に調べてみると、巨人サイドに不都合なことを書いたことに、読売新聞出身の球団関係者が同じ読売新聞出身の井原事務局長にねじ込み、広報部が調べもしないでサンケイスポーツにクレームをつけた。もちろん書いた原稿の事実関係に間違いはない。要は不都合な記事に対して狙い撃ち、嫌がらせとして取材証の剥奪をしようとしたということだったのだのだろう。
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