「手書きで文字を書く」行為が脳にもたらす効果 紙の手帳を使うメリットとは?
文房具ソムリエの石津ヒロシさんは、PCやスマホでスケジュール管理が出来る時代でも、紙の手帳を使うことにはメリットがあると語ります。「手書きで文字を書く」ことの効果について、書籍『文房具ソムリエの手帳時間』より紹介します。 すぐ行動できる人に変わる「ウィークリーノート」の書き方 ※本稿は、石津ヒロシ著『文房具ソムリエの手帳時間』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
「手書き」は脳のインフルエンサー
PCやスマホは、非常に便利なツールです。スケジュール管理アプリもたくさんあります。しかし、手帳がもういらないわけではありません。むしろ、これからの時代こそ、手書きの手帳が重要なのです。 手帳の役割は、スケジュールを書き留めるだけではありません。手で書くことは、情報を脳にしっかりとインプットするためにとても重要です。 手書きのほうがタイピングより学習効果が高いというのは、今や世界各国の大学や研究機関で証明されています。たとえば、米国プリンストン大学のミューラーとUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のオッペンハイマーは、2014年、PCだけでメモを取ると、新しい知識を吸収しづらくなるという結果を報告しています。このように、デジタルデバイスは便利ですが、手書きのプロセスには重要な効果があるのです。 では、なぜPCやスマホのようなデジタルデバイスでは、手書きのようなメリットがないのでしょうか? 手書きで文字を書くという行為は、五感をフル稼働し、記憶情報の処理を促進する脳の活動です。たとえば、あなたが手書きで日記を書いたりメモをしたりすることを想像してみてください。これを読んでいる今、昨日の出来事を振り返って、紙にメモしていただいてもかまいません。 そのときの手書きは、おおよそ次のような情報処理になります。 ・視覚情報として脳にインプットされた昨日の出来事を想像する。 ・目の前のペンやメモを見る。 ・ペンと天然素材である紙に触れ、感触を知る。 ・天然素材であるペンのインクや紙の香りを嗅ぐ。 ・ペンを走らせる音、紙をめくる音を聞く。 ・昨日の出来事が美味しいものを食べたことなら味覚情報を刺激する。 ・漢字や文章表現がわからなくなったときは、記憶を振り返り、考える。 ・書いたメモ用紙を俯瞰し、出来事を冷静に見つめる。 このようにまとめると、手書きという行為は、脳の統合的な活動とおわかりでしょう。 PCやスマホでは、人工的な機械に触れたような触感しか得られず、視覚や味覚の情報を振り返る時間もないままテキストができあがり、作業中は無味無臭、機械音のみが流れます。しかも、漢字や文章表現がわからなくても、PCやスマホが調べてくれます。さらには、あなたが思考しなくても文を書いてくれることもあります。 これでは、メモのスピードは速くても、脳を活性化しているとは言えないですよね? 私たちの脳は、臓器の中ではもっともエネルギーの食いしん坊で、私たちが摂取した栄養分の約25%は脳が消費します。その消費をおさえるためか、脳はつねに省エネをおこないます。つまり、ていよく活動をなまけようとするのです。 手書きは、そんな"なまけグセ"のある私たちの脳に対して、やさしく活動をうながす"脳のインフルエンサー"の役割を果たすのです。 それに対して、PCやスマホは便利ですが、裏を返せばそれは"なまけグセ"のある脳をさらに甘やかせ、脳の活動を鈍らせてしまう"脳の甘やかし屋さん"と言えるでしょう。